【行列】対角化③~応用編②~

行列

 前回

の続き。

 行列の対角化を使ってトクする応用例その2。

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連立微分方程式

 \(a_{i,j}(i,j=1,2,\cdots d)\)を定数として、次のような連立微分方程式を考える。

\begin{align}
\begin{cases}
\displaystyle{\frac{dy_{1}}{dx}=a_{1,1}y_{1}+a_{1,2}y_{2}+\cdots+a_{1,d}y_{d}}\\
\displaystyle{ \frac{dy_{2}}{dx}=a_{2,1}y_{1}+a_{2,2}y_{2}+\cdots+a_{2,d}y_{d}}\\
\qquad\qquad\qquad\qquad\vdots\\
\displaystyle{ \frac{dy_{d}}{dx}=a_{d,1}y_{1}+a_{d,2}y_{2}+\cdots+a_{d,d}y_{d}}
\end{cases}\tag{1}\label{biho1}
\end{align}

 (\ref{biho1})をそのまま解こうとすると、互いの方程式の関係性などを加味してうまく解かなければならないが、行列の対角化を使うとそういったことを考えることなく、機械的に微分方程式を解くことができる。

 この(\ref{biho1})を

\begin{align}
\vec{y}=\begin{pmatrix}y_{1}\\y_{2}\\\vdots\\y_{d}\end{pmatrix},\qquad
\mathsf{A}=\begin{pmatrix}
a_{1,1}&a_{1,2}&\cdots&a_{1,d}\\
a_{2,1}&a_{2,2}&\cdots&a_{2,d}\\
\vdots&\vdots&\ddots&\vdots\\
a_{d,1}&a_{d,2}&\cdots&a_{d,d}\end{pmatrix} \tag{2}\label{biho2}
\end{align}

を使って下記のように書き換える。

\begin{align}
\frac{d}{dx}\vec{y}=\mathsf{A}\vec{y} \tag{3}\label{biho3}
\end{align}

 この行列\(\mathsf{A}\)が対角化できたとすると、 固有値を\(\lambda_{i}(i=1,2,\cdots d)\)、固有値に対応する固有ベクトルを\(\vec{v}_{i}\)として

\begin{align}
\mathsf{P}=\begin{pmatrix}\vec{v}_{1}& \vec{v}_{2}&\cdots&\vec{v}_{d}\end{pmatrix},\qquad\Lambda=
\begin{pmatrix}
\lambda_{1}&0&\cdots&0\\
0& \lambda_{2}&\cdots&0\\
0&0&\cdots& \lambda_{d}\end{pmatrix} \tag{4}\label{osarai1}
\end{align}

が決まり、(\ref{biho3})は

\begin{align}
\frac{d}{dx}\vec{y}=\mathsf{P}\Lambda\mathsf{P}^{-1}\vec{y} \tag{5}\label{biho4}
\end{align}

と書き換えられる。
 ここで新たなベクトル\(\vec{z}=\mathsf{P}^{-1}\vec{y}\)を導入する。このとき\(\vec{y}=\mathsf{P}\vec{z}\)となるため、これらを(\ref{biho4})に適用すると、

\begin{gather}
\frac{d}{dx}\mathsf{P}\vec{z}=\mathsf{P}\Lambda\vec{z} \tag{6}\label{biho5}
\end{gather}

となる。さらに(\ref{biho5})の両辺に左側から行列\(\mathsf{P}^{-1}\)を掛けると、最終的に

\begin{gather}
\mathsf{P}^{-1}\frac{d}{dx}\mathsf{P}\vec{z}=\mathsf{P}^{-1}\mathsf{P} \Lambda\vec{z} \\
\frac{d}{dx}\vec{z}=\Lambda\vec{z} \tag{7}\label{biho6}
\end{gather}

となる。
 よって\(\vec{z}=\begin{pmatrix}z_{1}&z_{2}&\cdots&z_{d}\end{pmatrix}^{\text{T}}\)とすると、(\ref{osarai1})から(\ref{biho6})は

\begin{align}
\begin{cases}
\displaystyle{\frac{dz_{1}}{dx}=\lambda_{1}z_{1}}\\
\displaystyle{\frac{dz_{2}}{dx}=\lambda_{2}z_{2}}\\
\qquad\vdots\\
\displaystyle{\frac{dz_{d}}{dx}=\lambda_{d}z_{d}}
\end{cases}\tag{8}\label{biho8}
\end{align}

と書き換えられる。
 (\ref{biho8})は典型的な線形斉次の微分方程式の集まりであり、一般解は\(z_{i}(x)=A_{i}e^{\lambda_{i}x}\)\((i=1,2,\cdots d)\)と求められる。
 よってもともと\(\vec{y}=\mathsf{P}\vec{z}\)の関係があったことを思い出せば、上で出した\(\vec{z}\)の結果を代入することで\(\vec{y}\)を求めることができる。

 上記の解法、いくつか段階を踏む必要があるが、独特のアイデアや計算のセンスは一切必要としていない。

 今回は1階の微分方程式で話を進めたが、もちろん2階の微分方程式でも解法の流れは同じだし、定数項があっても(\ref{biho8})の各方程式に定数項が加わるだけで、解法の流れは変わらない。

練習問題

 次の連立微分方程式の一般解を求めよ(以前の記事の結果を用いてよい)。

\begin{align}
\begin{cases}
\displaystyle{\frac{dy_{1}}{dx}=y_{1}+3y_{2}}\\
\displaystyle{ \frac{dy_{2}}{dx}=-4y_{1}+6y_{2}+6y_{3}}\\
\displaystyle{ \frac{dy_{3}}{dx}=2y_{2}-y_{3}}
\end{cases}
\end{align}

\begin{align}
\vec{y}=\begin{pmatrix}y_{1}\\y_{2}\\y_{3}\end{pmatrix},\qquad
\mathsf{A}=\begin{pmatrix}
1&3&0\\
-4&6&6\\
0&2&-1\end{pmatrix}
\end{align}

として連立微分方程式を書き直すと

\begin{align}
\frac{d}{dx}\vec{y}=\mathsf{A}\vec{y}
\end{align}

となる。行列\(\mathsf{A}\)は対角化でき、固有値の対角行列\(\Lambda\)、固有ベクトルの行列\(\mathsf{P}\)を使って

\begin{align}
\frac{d}{dx}\vec{y}=\mathsf{P}\Lambda\mathsf{P}^{-1} \vec{y}
\end{align}

と書ける。ここで\(\vec{z}=\mathsf{P}^{-1}\vec{y}= \begin{pmatrix}z_{1}&z_{2}&z_{3}\end{pmatrix}^{\text{T}} \)を導入して上式に代入し、逆行列\(\mathsf{P}^{-1}\)を使うと

\begin{gather}
\frac{d}{dx}\mathsf{P}\vec{z}= \mathsf{P}\Lambda\vec{z} \\
\frac{d}{dx}\vec{z}=\Lambda\vec{z}\\
\frac{d}{dx}\begin{pmatrix}z_{1}\\z_{2}\\z_{3}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}
-2&0&0\\
0&3&0\\
0&0&5\end{pmatrix} \begin{pmatrix}z_{1}\\z_{2}\\z_{3}\end{pmatrix}
\end{gather}

となり、最終的に

\begin{align}
\begin{cases}
\displaystyle{\frac{dz_{1}}{dx}=-2z_{1}}\\
\displaystyle{ \frac{dz_{2}}{dx}=3z_{2}}\\
\displaystyle{ \frac{dz_{3}}{dx}=5z_{3}}
\end{cases}
\end{align}

となる。この微分方程式はすぐ解けて、任意定数を\(A_{i}(i=1,2,3)\)とすると

\begin{align}
\begin{cases}
z_{1}(x)=A_{1}e^{-2x}\\
z_{2}(x)=A_{2}e^{3x}\\
z_{3}(x)=A_{3}e^{5x}
\end{cases}
\end{align}

となる。よって\(\vec{y}=\mathsf{P}\vec{z}\)であるため

\begin{gather}
\begin{pmatrix}y_{1}\\y_{2}\\y_{3}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}
1&3&9\\
-1&2&12\\
2&1&4\end{pmatrix}\begin{pmatrix} A_{1}e^{-2x} \\ A_{2}e^{3x} \\ A_{3}e^{5x} \end{pmatrix} \\
\quad\\
\therefore\begin{cases}
y_{1}(x)= A_{1}e^{-2x}+3 A_{2}e^{3x}+9 A_{3}e^{5x} \\
y_{2}(x)=-A_{1}e^{-2x} +2 A_{2}e^{3x}+12 A_{3}e^{5x} \\
y_{3}(x)=2 A_{1}e^{-2x}+ A_{2}e^{3x}+4 A_{3}e^{5x}
\end{cases}
\end{gather}

と求められる。

 

 物理での応用例としてよく用いられるのが、連成振動(複数繋がったばねによる運動)である。

 連成振動については下記にて取り上げているので、実際に行列の対角化が使われている様子を見てもらいたい。

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次回予告

 行列記事の大きな山はこれで越えた。

 その後でおまけのような記事になってしまうが、対角化を取り上げる上で外せない重要な話がもう1つあるため、最後にその話を書いて終わりにしようと思う。

 

 ※下記に続く。

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