前回
にて、行列の固有値と固有ベクトルを扱った。
この知識を利用して、今回からいよいよ対角化を扱う。
定義
d次の正方行列\(\mathsf{A}\)には、d個の固有値\(\lambda_{i}\)(ただし\(i=1,2,\cdots d\))が存在し、それに対応する固有ベクトル\(\vec{v}_{i}\)が存在する、すなわち
\begin{align}
\mathsf{A}\vec{v}_{i}=\lambda_{i}\vec{v}_{i}\qquad(i=1,2,\cdots d) \tag{1}\label{taikaku1}
\end{align}
とする。ただし、\(\lambda_{i}\)はすべて異なる値(縮退していない)とする。
ここで、この固有ベクトル\(\vec{v}_{i}\)を並べてできる行列\(\mathsf{P}\)を導入する。
\begin{align}
\mathsf{P}=\begin{pmatrix}\vec{v}_{1}&\vec{v}_{2}&\cdots&\vec{v}_{d}\end{pmatrix} \tag{2}\label{taikaku2}
\end{align}
この行列\(\mathsf{P}\)は正則であり、逆行列\(\mathsf{P}^{-1}\)が必ず存在する。
この行列\(\mathsf{P}\)の左側に行列\(\mathsf{A}\)を掛けると、(\ref{taikaku1})を使って
\begin{align}
\mathsf{A}\mathsf{P}&=\begin{pmatrix}\mathsf{A}\vec{v}_{1}&\mathsf{A}\vec{v}_{2}&\cdots&\mathsf{A}\vec{v}_{d}\end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix}\lambda_{1}\vec{v}_{1}&\lambda_{2}\vec{v}_{2}&\cdots&\lambda_{d}\vec{v}_{d}\end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix}\vec{v}_{1}&\vec{v}_{2}&\cdots&\vec{v}_{d}\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
\lambda_{1}&0&\cdots&0\\
0&\lambda_{2}&\cdots&0\\
\vdots&\vdots&\ddots&\vdots\\
0&0&\cdots&\lambda_{d}
\end{pmatrix}=\mathsf{P}\Lambda \tag{3}\label{taikaku3}
\end{align}
と計算できる。ただし
\begin{align}
\Lambda= \begin{pmatrix}
\lambda_{1}&0&\cdots&0\\
0&\lambda_{2}&\cdots&0\\
\vdots&\vdots&\ddots&\vdots\\
0&0&\cdots&\lambda_{d}
\end{pmatrix} \tag{4}\label{taikaku4}
\end{align}
である。
さらに(\ref{taikaku3})の両辺に、右側から行列\(\mathsf{P}^{-1}\)を掛けると
\begin{gather}
\mathsf{A}\mathsf{P}\mathsf{P}^{-1}=\mathsf{P}\Lambda\mathsf{P}^{-1} \\
\boxed{\mathsf{A}=\mathsf{P}\Lambda\mathsf{P}^{-1}} \tag{5}\label{taikaku5}
\end{gather}
となる。
この(\ref{taikaku5})こそ、ずっと求めたかったものである。
(\ref{taikaku5})は、正方行列をその固有値でできた対角行列を使って書き表すことができることを示している。
正方行列を対角行列で表すことから、この操作を対角化と呼ぶ。
(\ref{taikaku5})を変形して得られる
\begin{align}
\boxed{\mathsf{P}^{-1} \mathsf{A} \mathsf{P} = \Lambda} \tag{6}\label{taikaku6}
\end{align}
の形もよく使われる。
今までの議論は、\(\lambda_{i}\)がすべて異なる値(縮退していない)をとることを前提としていたが、縮退していても、縮退しているしている分の固有ベクトルを得ることができれば対角化できる。
逆に、縮退している分の固有ベクトルを得ることができなければ対角化はできない。
例
前回の練習問題で扱った行列を対角化してみる。
練習問題
次の2つの行列を対角化せよ。
\begin{align}
\mathsf{A}=\begin{pmatrix}6&-2\\1&3\end{pmatrix}\qquad
\mathsf{B}=\begin{pmatrix}
1&3&0\\
-4&6&6\\
0&2&-1
\end{pmatrix}
\end{align}
行列\(\mathsf{A}\)の固有値を\(\lambda_{i}(i=1,2)\)、それに対応する固有ベクトルを\(\vec{v}_{i}(i=1,2)\)とすると、
\begin{align}
\lambda_{1}=4,\quad\lambda_{2}=5,\quad\vec{v}_{1}=\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix},\quad \vec{v}_{2}=\begin{pmatrix}2\\1\end{pmatrix}
\end{align}
である。
ここで
\begin{align}
\mathsf{P}=\begin{pmatrix}\vec{v}_{1}&\vec{v}_{2}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&2\\1&1\end{pmatrix},\qquad\mathsf{P}^{-1}=\begin{pmatrix}-1&2\\1&-1\end{pmatrix}
\end{align}
として、\(\mathsf{P}^{-1}\mathsf{A}\mathsf{P}\)を計算すると
\begin{align}
\mathsf{P}^{-1}\mathsf{A}\mathsf{P}&=\begin{pmatrix}-1&2\\1&-1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}6&-2\\1&3\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&2\\1&1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}-1&2\\1&-1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}4&10\\4&5\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}4&0\\0&5\end{pmatrix}
\end{align}
となって固有値の対角行列が得られ、対角化できた。
同様に行列\(\mathsf{B}\)の固有値を\(\lambda_{i}(i=1,2,3)\)、それに対応する固有ベクトルを\(\vec{v}_{i}(i=1,2,3)\)とすると、
\begin{align}
\lambda_{1}=-2,\quad\lambda_{2}=3,\quad\lambda_{3}=5,\quad\vec{v}_{1}=\begin{pmatrix}1\\-1\\2\end{pmatrix},\quad \vec{v}_{2}=\begin{pmatrix}3\\2\\1\end{pmatrix},\quad \vec{v}_{3}=\begin{pmatrix}9\\12\\4\end{pmatrix}
\end{align}
となる。
ここで、
\begin{align}
\mathsf{P}=\begin{pmatrix}\vec{v}_{1}&\vec{v}_{2}&\vec{v}_{3}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&3&9\\-1&2&12\\2&1&4\end{pmatrix},\qquad\mathsf{P}^{-1}=\frac{1}{35}\begin{pmatrix}-4&-3&18\\28&-14&-21\\-5&5&5\end{pmatrix}
\end{align}
として、\(\mathsf{P}^{-1}\mathsf{A}\mathsf{P}\)を計算すると
\begin{align}
\mathsf{P}^{-1}\mathsf{A}\mathsf{P}&=\frac{1}{35}\begin{pmatrix}-4&-3&18\\28&-14&-21\\-5&5&5\end{pmatrix}\begin{pmatrix}
1&3&0\\
-4&6&6\\
0&2&-1
\end{pmatrix} \begin{pmatrix}1&3&9\\-1&2&12\\2&1&4\end{pmatrix}\\
&=\frac{1}{35}\begin{pmatrix}-4&-3&18\\28&-14&-21\\-5&5&5\end{pmatrix} \begin{pmatrix}-2&9&45\\2&6&60\\-4&3&20\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}-2&0&0\\0&3&0\\0&0&5\end{pmatrix}
\end{align}
となって固有値の対角行列が得られ、対角化できた。
次回予告
正方行列が対角行列で表せるのは理解できたけど、1つの行列を3つの行列の積で表しているから逆にややこしくなってないか?
対角化をやって何が得になるのかわからない。
ぱっと見では確かにわからないだろうが、対角化を使うことでいくつかの計算を非常に楽に実行できるようになる。
次回、そのあたりを詳しく見ていく。
※下記に続く。
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