【行列】固有値と固有ベクトル

行列

 前回

までに行列の基本的な性質や、特別な種類の行列を見てきた。

 今回からそれらの知識を動員して、行列の固有値と固有ベクトル、そして対角化まで話を進める。

 まずは行列の固有値と固有ベクトルについて。


定義と求め方

 ゼロベクトルでないベクトル\(\vec{v}\)に正方行列\(\mathsf{A}\)を掛け、その結果ベクトル\(\vec{x}\)が得られたとする。

\begin{gather}
\mathsf{A}\vec{v}=\vec{x} \tag{1}\label{avx}
\end{gather}

 また、ベクトル\(\vec{v}\)に定数\(\lambda\)を掛けても、同じベクトル\(\vec{x}\)が得られたとする。

\begin{gather}
\lambda\vec{v}=\vec{x} \tag{2}\label{lvx}
\end{gather}

 すなわち、

\begin{align}
\mathsf{A}\vec{v}=\lambda\vec{v} \tag{3}\label{avlv}
\end{align}

が成立するとき、\(\lambda\)は行列\(\mathsf{A}\)の固有値、\(\vec{v}\)は行列\(\mathsf{A}\)の固有ベクトルであるといい、(\ref{avlv})の方程式を固有値方程式と呼ぶ。

 ベクトルに行列を作用させて得られる結果と、単に同じベクトルを定数倍するだけで得られる結果が一致するという、一見ありそうに思えない結果が得られるのが固有値と固有ベクトルなのだ。

 ちなみに固有ベクトルは、その定数倍も固有ベクトルとなる
 仮に、定数\(\alpha\neq0\)として固有ベクトル\(\vec{v}\)を\(\alpha\)倍した\(\vec{w}=\alpha\vec{v}\)というベクトルに行列\(\mathsf{A}\)を作用させると、

\begin{align}
\mathsf{A}\vec{w}=\mathsf{A}\alpha\vec{v}=\alpha\mathsf{A}\vec{v}=\alpha\lambda\vec{v}=\lambda\alpha\vec{v}=\lambda\vec{w}
\end{align}

となるため、ベクトル\(\vec{w}\)も固有ベクトルになる。
 この事実は、後ほど実対象行列やエルミート行列の固有値、固有ベクトルを扱う際に重要な意味を持つ。

 

 さて、この固有値、固有ベクトルの求め方だが、それを調べるために下記のように(\ref{avlv})を変形する。

\begin{align}
(\mathsf{A}-\lambda\mathsf{I})\vec{v}=\vec{0} \tag{4}\label{all0}
\end{align}

 右辺を左辺に移項し、単位行列の性質(\(\mathsf{I}\vec{v}=\vec{v}\))を利用した。

 ここで、行列\(\mathsf{A}-\lambda\mathsf{I}=\mathsf{B}\)と置き、この行列\(\mathsf{B}\)が正則であるとする。
 行列\(\mathsf{B}\)が正則ということは\(\text{det}[\mathsf{A}]\neq0\)であり、逆行列\(\mathsf{B}^{-1}\)が存在する。
 よって、この逆行列\(\mathsf{B}^{-1}\)を(\ref{all0})の左側から作用させると、

\begin{gather}
\mathsf{B}^{-1} \mathsf{B}\vec{v} = \mathsf{B} ^{-1}\vec{0}\\
\vec{v}=\vec{0}\tag{5}\label{v0}
\end{gather}

となり、ベクトル\(\vec{v}\)がゼロベクトルになる。
 しかし、ベクトル\(\vec{v}\)はそもそもゼロベクトルでないベクトルとしていたため、この結果は不適である。
 この結果が得られたのは、逆行列\(\mathsf{B}^{-1}\)が存在する、つまり行列\(\mathsf{B}\)が正則であると仮定したためであるから、この仮定が間違っていたことになる。
 すなわち、ゼロベクトルでない固有ベクトル\(\vec{v}\)を得るためには、行列\(\mathsf{B}\)が正則でないこと、すなわち

\begin{gather}
\text{det}[\mathsf{B}]=0\\
\text{det}[(\mathsf{A}-\lambda\mathsf{I})]=0 \tag{6}\label{det0}
\end{gather}

が条件であることがわかる。この(\ref{det0})を特性方程式と呼ぶ。
 (\ref{det0})の中には未知数は\(\lambda\)しかないため、(\ref{det0})は\(\lambda\)に関する方程式であり、ここから固有値\(\lambda\)を求められることがわかる。

 今までの議論では、(\ref{det0})がゼロベクトルでない固有ベクトル\(\vec{v}\)が存在するための必要条件であることを示したに過ぎないことに注意。
 実際は、(\ref{det0})はゼロベクトルでない固有ベクトル\(\vec{v}\)が存在するための必要十分条件であるが、十分条件であることの証明は省略する。

 具体的な行列の固有値、固有ベクトルを求めてみる。

練習問題

 次の2つの行列の固有値とそれに対応する固有ベクトルを1つずつ求めよ。

\begin{align}
\mathsf{A}=\begin{pmatrix}6&-2\\1&3\end{pmatrix}\qquad
\mathsf{B}=\begin{pmatrix}
1&3&0\\
-4&6&6\\
0&2&-1
\end{pmatrix}
\end{align}

 解答

 行列\(\mathsf{A}\)の固有値を\(\lambda\)とすると、特性方程式より

\begin{align}
&\text{det}[\mathsf{A}-\lambda\mathsf{I}]=0\\
&\text{det}\left[\begin{pmatrix}6-\lambda&-2\\1&3-\lambda\end{pmatrix}\right]=0\\
&(6-\lambda)(3-\lambda)+2=0\\
&\lambda^{2}-9\lambda+20=0\\
&(\lambda-4)(\lambda-5)=0\qquad\therefore\,\lambda=4,\,5
\end{align}

と求められる。それぞれ\(\lambda_{1}=4,\,\lambda_{2}=5\)として、それぞれに対応する固有ベクトルを\(\vec{v}_{1}=(x_{1},y_{1})^{\text{T}},\)\(\,\vec{v}_{2}=(x_{2},y_{2})^{\text{T}}\)とすると、

\begin{align}
&(\mathsf{A}-\lambda_{1}\mathsf{I})\vec{v}_{1}=0\\
&\begin{pmatrix}2&-2\\1&-1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x_{1}\\y_{1}\end{pmatrix}=0 \qquad\therefore\vec{v}_{1}=\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix}\\
\quad\\
&(\mathsf{A}-\lambda_{2}\mathsf{I})\vec{v}_{2}=0\\
& \begin{pmatrix}1&-2\\1&-2\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x_{2}\\y_{2}\end{pmatrix}=0 \qquad\therefore\vec{v}_{2}=\begin{pmatrix}2\\1\end{pmatrix}
\end{align}

となる。

 同様に、行列\(\mathsf{B}\)の固有値を\(\lambda\)とすると、特性方程式より

\begin{align}
&\text{det}[\mathsf{B}-\lambda\mathsf{I}]=0\\
&\text{det}\left[\begin{pmatrix}
1-\lambda&3&0\\
-4&6-\lambda&6\\
0&2&-1-\lambda
\end{pmatrix}\right]=0\\
&(1-\lambda)(6-\lambda)(-1-\lambda)+12(-1-\lambda)-12(1-\lambda)=0\\
&\lambda^{3}-6\lambda^{2}-\lambda+30=0\\
&(\lambda+2)(\lambda-3)(\lambda-5)=0\qquad\therefore\,\lambda=-2,\,3,\,5
\end{align}

と求められる。それぞれ\(\lambda_{1}=-2,\,\lambda_{2}=3,\,\lambda_{3}=5\)として、それぞれに対応する固有ベクトルを\(\vec{v}_{1}=(x_{1},y_{1},z_{1})^{\text{T}},\)\(\,\vec{v}_{2}=(x_{2},y_{2},z_{2})^{\text{T}},\)\(\,\vec{v}_{3}=(x_{3},y_{3},z_{3})^{\text{T}}\) とすると、

\begin{align}
&(\mathsf{A}-\lambda_{1}\mathsf{I})\vec{v}_{1}=0\\
&\begin{pmatrix}
3&3&0\\
-4&8&6\\
0&2&1
\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x_{1}\\y_{1}\\z_{1}\end{pmatrix}=0 \qquad\therefore\vec{v}_{1}=\begin{pmatrix}1\\-1\\2\end{pmatrix}\\
\quad\\
&(\mathsf{A}-\lambda_{2}\mathsf{I})\vec{v}_{2}=0\\
& \begin{pmatrix}
-2&3&0\\
-4&3&6\\
0&2&-4
\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x_{2}\\y_{2}\\z_{2}\end{pmatrix}=0 \qquad\therefore\vec{v}_{2}=\begin{pmatrix}3\\2\\1\end{pmatrix}\\
\quad\\
&(\mathsf{A}-\lambda_{3}\mathsf{I})\vec{v}_{3}=0\\
& \begin{pmatrix}
-4&3&0\\
-4&1&6\\
0&2&-6
\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x_{3}\\y_{3}\\z_{3}\end{pmatrix}=0 \qquad\therefore\vec{v}_{3}=\begin{pmatrix}9\\12\\4\end{pmatrix}
\end{align}

となる。

 上で求めた固有ベクトルを定数倍しても固有ベクトルになることも確認しておくと良い。

次回予告

 ここまでなら、行列にはそれぞれ固有の特別な値とベクトルが存在する場合があるという話で終わるわけだが、もちろんこのままでは終わらない。

 これらを使って、さらに「対角化」という作業を経ることで、行列の利便性を格段に向上させることができる。

 次回、ようやく今までやりたかった「対角化」へ進む。

 

 END

 

 ※追記
 いよいよ「対角化」の記事を執筆。


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