前回
までで、行列の対角化とその応用まで見てきたが、対角化の記事は今回で最後。
少々おまけ的な位置づけになってしまったが、重要な話なのでしっかり取り上げることにする。
とりあえず、行列に関する記事は今回で区切りをつける。
本記事で取り上げる実対称行列、エルミート行列、直交行列、ユニタリー行列の詳細は下記記事を参照。
実対称行列の対角化
正方行列\(\mathsf{A}\)が、成分が全て実数かつ\(\mathsf{A}=\mathsf{A}^{\text{T}}\)を満たす(自身の転置行列と等しい)とき、\(\mathsf{A}\)は実対称行列であるという。
この実対称行列は、対角化に関して下記のような性質を持つ。
・実対称行列は必ず対角化できる。
・実対称行列の固有値は、すべて実数である。
・実対称行列の固有値に対する固有ベクトルは、正規直交基底をなすように取れる。
特に3番目の性質を利用すると、実対称行列の対角化の操作をかなり楽に進めることができる。
実際に、d次の実対称行列\(\mathsf{A}\)を対角化することを考えてみる。
このとき固有値\(\lambda_{i}(i=1,2,\cdots d\))はすべて実数であり、固有値に対応する固有ベクトル\(\vec{v}_{i}\)は正規直交基底をなすようにとれるわけだから、それらを並べて作られる行列
\begin{align}
\mathsf{O}=\begin{pmatrix}\vec{v}_{1}&\vec{v}_{2}&\cdots&\vec{v}_{d}\end{pmatrix}
\end{align}
は直交行列そのものである。
直交行列は、その転置行列と逆行列が一致するため、対角化の際に行列\(\mathsf{O}\)の逆行列を求める際はその転置を取るだけで済み、
\begin{align}
\mathsf{A}=\mathsf{O}\Lambda\mathsf{O}^{\text{T}}
\end{align}
となる。
エルミート行列の対角化
正方行列\(\mathsf{A}\)が、\(\mathsf{A}=\mathsf{A}^{\dagger}\)を満たす(自身のエルミート共役と等しい)とき、\(\mathsf{A}\)はエルミート行列であるという。
このエルミート行列も下記のように、対角化に関して実対称行列と同様の性質を持つ。
・エルミート行列は必ず対角化できる。
・エルミート行列の固有値は、すべて実数である。
・エルミート行列の固有値に対する固有ベクトルは、正規直交基底をなすように取れる。
先ほどと同様にして、d次のエルミート行列\(\mathsf{A}\)を対角化することを考えてみる。
このとき固有値\(\lambda_{i}(i=1,2,\cdots d\))はすべて実数であり、固有値に対応する固有ベクトル\(\vec{u}_{i}\)は正規直交基底をなすようにとれるわけだから、それらを並べて作られる行列
\begin{align}
\mathsf{U}=\begin{pmatrix}\vec{u}_{1}&\vec{u}_{2}&\cdots&\vec{u}_{d}\end{pmatrix}
\end{align}
はユニタリー行列そのものである。
ユニタリー行列は、そのエルミート共役と逆行列が一致するため、対角化の際に行列\(\mathsf{U}\)の逆行列を求める際はそのエルミート共役を取るだけで済み、
\begin{align}
\mathsf{A}=\mathsf{U}\Lambda\mathsf{U}^{\dagger}
\end{align}
となる。
練習問題
上記の内容を具体的な行列で実際に計算してみる。
練習問題
次の実対称行列\(\mathsf{A}\)とエルミート行列\(\mathsf{B}\)を対角化せよ。
\begin{align}
\mathsf{A}=\begin{pmatrix}
5&-2\\
-2&2
\end{pmatrix}\qquad\mathsf{B}=\begin{pmatrix}
4&\sqrt{3}\,i\\
-\sqrt{3}\,i&6\end{pmatrix}
\end{align}
まず行列\(\mathsf{A}\)を対角化する。
行列\(\mathsf{A}\)の固有値を\(\lambda_{i}(i=1,2)\)、それに対応する固有ベクトルを\(\vec{v}_{i}\)とすし、固有ベクトルが正規直交基底(\(|\vec{v}_{1}|= |\vec{v}_{2}|=1, (\vec{v}_{1})^{\text{T}}\vec{v}_{2}=0\))を成すようにとると、
\begin{align}
\lambda_{1}=1,\quad\lambda_{2}=6,\quad\vec{v}_{1}=\frac{1}{\sqrt{5}}\begin{pmatrix}1\\2\end{pmatrix},\quad\vec{v}_{2}=\frac{1}{\sqrt{5}}\begin{pmatrix}-2\\1\end{pmatrix}
\end{align}
となる。
ここで
\begin{align}
\mathsf{O}=\begin{pmatrix}\vec{v}_{1}&\vec{v}_{2}\end{pmatrix}=\frac{1}{\sqrt{5}}\begin{pmatrix}
1&-2\\
2&1
\end{pmatrix},\qquad\mathsf{O}^{\text{T}}=\frac{1}{\sqrt{5}}\begin{pmatrix}
1&2\\
-2&1
\end{pmatrix}
\end{align}
として、\(\mathsf{O}^{\text{T}}\mathsf{A}\mathsf{O}\)を計算すると
\begin{align}
\mathsf{O}^{\text{T}}\mathsf{A}\mathsf{O}=\frac{1}{5} \begin{pmatrix}
1&2\\
-2&1
\end{pmatrix} \begin{pmatrix}
5&-2\\
-2&2
\end{pmatrix} \begin{pmatrix}
1&-2\\
2&1
\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}
1&0\\
0&6\end{pmatrix}
\end{align}
となって固有値の対角行列が得られ、対角化できた。
続いて行列\(\mathsf{B}\)を対角化する。
行列\(\mathsf{B}\)の固有値を\(\lambda_{i}(i=1,2)\)、それに対応する固有ベクトルを\(\vec{v}_{i}\)とすし、固有ベクトルが正規直交基底(\(|\vec{u}_{1}|= |\vec{u}_{2}|=1, (\vec{u}_{1})^{\dagger} \vec{u}_{2}=0\))を成すようにとると、
\begin{align}
\lambda_{1}=3,\quad\lambda_{2}=7,\quad\vec{u}_{1}=\frac{1}{2}\begin{pmatrix}\sqrt{3}\\i\end{pmatrix},\quad\vec{u}_{2}=\frac{1}{2}\begin{pmatrix}i\\\sqrt{3}\end{pmatrix}
\end{align}
となる。
ここで
\begin{align}
\mathsf{U}=\begin{pmatrix}\vec{u}_{1}&\vec{u}_{2}\end{pmatrix}=\frac{1}{2}\begin{pmatrix}
\sqrt{3}&i\\
i&\sqrt{3}
\end{pmatrix},\qquad\mathsf{U}^{\dagger}=\frac{1}{2}\begin{pmatrix}
\sqrt{3}&-i\\
-i&\sqrt{3}
\end{pmatrix}
\end{align}
として、\(\mathsf{U}^{\dagger}\mathsf{B}\mathsf{U}\)を計算すると
\begin{align}
\mathsf{U}^{\dagger}\mathsf{B}\mathsf{U}=\frac{1}{4} \begin{pmatrix}
\sqrt{3}&-i\\
-i&\sqrt{3}
\end{pmatrix} \begin{pmatrix}
4&\sqrt{3}\,i\\
-\sqrt{3}\,i&6
\end{pmatrix} \begin{pmatrix}
\sqrt{3}&i\\
i&\sqrt{3}
\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}
3&0\\
0&7\end{pmatrix}
\end{align}
となって固有値の対角行列が得られ、対角化できた。
終わりに
実対称行列とエルミート行列の対角化を知っておくと、力学や量子力学で強力な武器になる。
操作の仕方は一貫しているため、類題を何度か解けばすぐに慣れると思う。
さて、ここで行列関連の記事は一区切りつけようと思う。
次に理数系記事を書くとしたら電磁気学になるが、一度個人的に時間をかけて復習しないと書けないから当分先になると思う。
このライフワーク(?)、どこまで続けられるやら…
END
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