前回
にて、量子力学では、ポテンシャル障壁よりエネルギー値が小さくても、ポテンシャル障壁が占める領域に粒子が存在し得ることを見てきた。
今回はいよいよ、上記事実が見せる量子力学特有の現象「トンネル効果」扱っていく。
問題3
右図のように\(|x|<\ell\)の領域に高さ\(V_{0}\)のポテンシャル障壁がある一次元系にある、質量\(m\)の粒子について考える。
\begin{align}
V(x)= \begin{cases} 0\qquad (|x|\geq \ell) \\
V_{0}\qquad (|x|<\ell) \tag{1}\label{potential} \end{cases}
\end{align}
このとき、この粒子に関する定常状態のシュレディンガー方程式
\begin{align}
-\frac{\hbar^{2}}{2m}\frac{d^{2}}{dx^{2}}\varphi(x)+V(x)\varphi(x) =E\varphi(x) \tag{2}\label{シュレディンガー}
\end{align}
の一般解は\(E>V_{0}\)のとき、
\begin{align}
\varphi(x)=
\begin{cases}
Ae^{ik x}+Be^{-ik x} &\quad(x<-\ell) \\
Ce^{ik’ x}+De^{-ik’ x} &\quad(|x|\leq\ell) \\
Fe^{ik x}+Ge^{-ik x}&\quad(x>\ell) \tag{3}\label{一般解E>0}
\end{cases}
\end{align}
\(E<V_{0}\)のとき、
\begin{align}
\varphi(x)=
\begin{cases}
Ae^{ik x}+Be^{-ik x} &\quad(x<-\ell)\\
Ce^{\kappa x}+De^{-\kappa x} &\quad(|x|\leq\ell)\\
Fe^{ik x}+Ge^{-ik x}&\quad(x>\ell) \tag{4}\label{一般解E<0}
\end{cases}
\end{align}
で与えられる。ただし、\(k=\sqrt{2mE}/\hbar,\,k’=\sqrt{2m(E-V_{0})}/\hbar,\,\kappa=\sqrt{2m(V_{0}-E)}/\hbar \)である。
このとき、\( Ae^{ik x} \)が\(x=-\infty\)から右に進む粒子に対応することを利用し、粒子のポテンシャル障壁に対する反射確率\(R=|B|^{2}/|A|^{2}\)および透過確率\(T=|F|^{2}/|A|^{2}\)を
(a). \(E>V_{0}\)のとき
(b). \(E<V_{0}\)のとき
それぞれについて求めよ。
ただし、\(x=\infty\)から左に進む粒子は存在しないとしてよい。
解答(a)
任意定数の比を求めればよいので、接続条件のみを考えれば十分である。
まずは\(E>V_{0}\)のときを考えよう。
\(x=-\ell\)での接続条件は
\begin{align}
&\varphi(-\ell)\,:\,
Ae^{-ik\ell}+Be^{ik\,\ell} = Ce^{-ik’\ell}+De^{ik’\ell} \tag{5}\label{E>0-ellphi接続}\\
&\varphi'(-\ell)=\frac{d\varphi(x)}{dx}\bigg|_{x=-\ell}\,:\,
Ake^{-ik\ell}-Bke^{ik\ell}= Ck’e^{-ik’\ell}-Dk’e^{ik’\ell} \tag{6}\label{E>0-ellphi’接続}
\end{align}
となる。これを後々の計算のために行列形式にまとめると
\begin{gather}
\begin{pmatrix} e^{-ik\ell} & e^{ik\ell} \\ ke^{-ik\ell} & -ke^{ik\ell} \end{pmatrix}
\begin{pmatrix}A \\ B \end{pmatrix}=
\begin{pmatrix} e^{-ik’\ell} & e^{ik’\ell} \\ k’e^{-ik’\ell} & -k’e^{ik’\ell} \end{pmatrix}
\begin{pmatrix}C \\ D \end{pmatrix} \\
\quad\\
\therefore \begin{pmatrix}A \\ B \end{pmatrix}=
\frac{1}{2k}
\begin{pmatrix}(k+k’)e^{i(k-k’)\ell} & (k-k’)e^{i(k+k’)\ell} \\ (k-k’)e^{-i(k+k’)\ell} & (k+k’)e^{-i(k-k’)\ell} \end{pmatrix} \begin{pmatrix}C \\ D \end{pmatrix} \tag{7}\label{abcd}
\end{gather}
となる。
次に\(x=\ell\)での接続条件は
\begin{align}
&\varphi(\ell)\,:\,
Ce^{ik’\ell}+De^{-ik’\ell}= Fe^{ik\ell}+Ge^{-ik\,\ell} \tag{8}\label{E>0ellphi接続}\\
&\varphi'(\ell)=\frac{d\varphi(x)}{dx}\bigg|_{x=\ell}\,:\,
Ck’e^{ik’\ell}-Dk’e^{-ik’\ell}=Fke^{ik\ell}-Gke^{-ik\ell} \tag{9}\label{E>0ellphi’接続}
\end{align}
となる。同様に行列形式にまとめると、
\begin{gather}
\begin{pmatrix} e^{ik’\ell} & e^{-ik’\ell} \\ k’e^{ik\ell} & -k’e^{-ik’\ell} \end{pmatrix}
\begin{pmatrix}C \\ D \end{pmatrix}=
\begin{pmatrix} e^{ik\ell} & e^{-ik\ell} \\ ke^{ik\ell} & -ke^{-ik\ell} \end{pmatrix}
\begin{pmatrix}F \\ G \end{pmatrix} \\
\quad\\
\therefore \begin{pmatrix}C \\ D \end{pmatrix}=
\frac{1}{2k’}
\begin{pmatrix}(k+k’)e^{i(k-k’)\ell} & -(k-k’)e^{-i(k+k’)\ell} \\ -(k-k’)e^{i(k+k’)\ell} & (k+k’)e^{-i(k-k’)\ell} \end{pmatrix} \begin{pmatrix}F \\ G \end{pmatrix} \tag{10}\label{cdfg}
\end{gather}
となる。
この(\ref{cdfg})を(\ref{abcd})に代入して整理すると、
\begin{align}
\begin{pmatrix}A \\ B \end{pmatrix}&=
\frac{(k+k’)^{2}}{4kk’}
\begin{pmatrix}\alpha e^{2i(k-k’)\ell} & 2i\frac{k-k’}{k+k’}\sin(2k’\ell) \\ -2i\frac{k-k’} {k+k’}\sin(2k’\ell) & \beta e^{-2i(k-k’)\ell}
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}F \\ G \end{pmatrix} \\
&=\begin{pmatrix}M_{11} & M_{12} \\ M_{21} & M_{22}\end{pmatrix}\begin{pmatrix}F \\ G \end{pmatrix} \tag{11}\label{abfg}
\end{align}
となる。ただし\(\alpha=1-\left(\frac{k-k’}{k+k’}\right)^{2}e^{4ik’\ell},\,\beta=1-\left(\frac{k-k’}{k+k’}\right)^{2}e^{-4ik’\ell} \)である。
ここで\(x=\infty\)から左に進む粒子は存在しないことを思い出すと、\(x>\ell\)の領域において左向きの粒子に対応する\(Ge^{-ik x}\)がなくなればよいため\(G=0\)とできる。
よって\(G=0\)を(\ref{abfg})に代入すると、最終的に
\begin{align}
A=M_{11}F,\quad B=M_{21}F=\frac{M_{21}}{M_{11}}A \tag{12}\label{abf}
\end{align}
が得られるため、反射確率\(R\)と透過確率\(T\)はそれぞれ
\begin{align}
R&=\frac{|B|^{2}}{|A|^{2}}=\frac{|M_{21}|^{2}}{|M_{11}|^{2}}=\frac{\left(\frac{k^{2}-k’^{2}}{2kk’}\right)^{2}\sin^{2}(2k’\ell)}{1+\left(\frac{k^{2}-k’^{2}}{2kk’}\right)^{2}\sin^{2}(2k’\ell)} \tag{13}\label{R} \\
\quad&\\
T&=\frac{|F|^{2}}{|A|^{2}}=\frac{1}{|M_{11}|^{2}}=\frac{1} {1+\left(\frac{k^{2}-k’^{2}}{2kk’}\right)^{2}\sin^{2}(2k’\ell)} \tag{14}\label{T}
\end{align}
となる。
解答(b)
解答(a)とわけたが、ぶっちゃけるとわける必要もないほどすぐに\(R\)と\(T\)は求められる。
問題文の一般解を比較すればわかるように、\(ik’\to\kappa\)すなわち\(k’\to -i\kappa\)の変換をすればよい話だからだ。
このとき、
\begin{align}
\sin(2k’\ell)=\frac{e^{2ik’\ell}-e^{-2ik’\ell}}{2i}\to\frac{e^{2\kappa\ell}-e^{-2\kappa\ell}}{2i}=-i\sinh(2\kappa\ell)
\end{align}
となるので、前回の解答を流用して、
\begin{align}
R&=\frac{\left(\frac{k^{2}+\kappa^{2}}{2k\kappa}\right)^{2}\sinh^{2}(2\kappa\ell)}{1+\left(\frac{k^{2}+\kappa^{2}}{2k\kappa}\right)^{2}\sinh^{2}(2\kappa\ell)} \tag{15}\label{Rs} \\
\quad&\\
T&=\frac{1}{1+\left(\frac{k^{2}+\kappa^{2}}{2k\kappa}\right)^{2}\sinh^{2}(2\kappa\ell)} \tag{16}\label{Ts}
\end{align}
となる。
考察
得られた結果をまとめてみる。
\(E>V_{0}\)のとき
\begin{align}
R=\frac{\left(\frac{k^{2}-k’^{2}}{2kk’}\right)^{2}\sin^{2}(2k’\ell)}{1+\left(\frac{k^{2}-k’^{2}}{2kk’}\right)^{2}\sin^{2}(2k’\ell)},\quad
T=\frac{1} {1+\left(\frac{k^{2}-k’^{2}}{2kk’}\right)^{2}\sin^{2}(2k’\ell)}
\end{align}
\(E<V_{0}\)のとき
\begin{align}
R=\frac{\left(\frac{k^{2}+\kappa^{2}}{2k\kappa}\right)^{2}\sinh^{2}(2\kappa\ell)}{1+\left(\frac{k^{2}+\kappa^{2}}{2k\kappa}\right)^{2}\sinh^{2}(2\kappa\ell)},\quad
T=\frac{1} {1+\left(\frac{k^{2}+\kappa^{2}}{2k\kappa}\right)^{2}\sinh^{2}(2\kappa\ell)}
\end{align}
結果を見るとわかるように\(R+T=1\)が成立しており、確率が保存されていることがわかる。
\(E>V_{0}\)のとき、古典論では粒子は100%の確率でポテンシャル障壁を乗り越えるが、量子力学では0でない確率で、粒子がポテンシャル障壁で反射することがわかる。
ただし\(R\)の分子が0になるとき、すなわち
\begin{gather}
2k’\ell=n\pi \\
\therefore k’=\frac{n\pi}{2\ell}\quad(n=1,2,3,…) \tag{17}\label{共鳴}
\end{gather}
のときは\(T=1\)となり、粒子は確実にポテンシャル障壁を透過する(共鳴)。
ちなみにこの共鳴が起きるときのエネルギー値は、(\ref{共鳴})を利用して、
\begin{align}
E_{n}=V_{0}+\frac{\pi^{2}\hbar^{2}}{2m(2\ell)^{2}}n^{2} \quad(n=1,2,3,…) \tag{18}\label{共鳴E}
\end{align}
となる。
そして\(E<V_{0}\)のときだが、透過確率\(T\)は必ず正の値をとることがわかる。
すなわち、粒子が持つエネルギー値がポテンシャル障壁より低くても、粒子がポテンシャル障壁を透過し得る。
これがトンネル効果だ。
この現象は古典力学では見られない、量子力学特有のものである。
終わりに
大学に入る前、
普通、ボールは壁にぶつけても跳ね返るだけだけど、量子力学の世界ではボールが壁をすり抜けることがある。
これが「トンネル効果」だ。
みたいな説明を聞いたことがあり、
何じゃそりゃ。
と思っていた。
実際に大学で量子力学を学ぶと、上記の説明がいかに杜撰なものだったかを知ることになり、衝撃を受けたのを覚えている。
ひとまず量子力学の一次元系の問題はここで区切りをつけることにする。
今後何を扱うかは気分次第だが、やるとしたらスピンか水素原子あたりになるだろう。
これらも理論を追うのはかなり骨が折れるが、かなり面白いのも確かなので、記事として残していければと思う。
END
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