【量子力学】一次元での定常状態の一粒子系⑥~周期的境界~

量子力学

 以前

にて、一次元定常状態の一粒子系の有名問題「トンネル効果」を挙げた。

 今回はその番外編。

 一次元定常状態の一粒子系の量子力学の他の例題として、周期的境界が存在する系を扱う。

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問題

 図のように、長さ\(L\)の区間にある、質量\(m\)の自由粒子を考える。粒子の波動関数を\(\varphi(x)\)としたとき、下記のような条件があるとする。

\begin{align}
\varphi(0)=\varphi(L),\qquad \frac{d{\varphi(x)}}{d{x}}\bigg|_{x=0}={\frac{d{\varphi(x)}}{d{x}}}\bigg|_{x=L} \tag{1}\label{周期境界条件}
\end{align}

 このとき、この粒子に関する定常状態のシュレディンガー方程式を立て、その解(つまり、エネルギー固有値と波動関数)をすべて求めよ。ただし、波動関数は規格化すること。

解答

今回のように、ある位置から粒子の状態が元に戻るような境界条件を周期的境界条件(周期境界条件)と呼ぶ。
円周\(L\)の円をぐるぐる回り続けるようなイメージだとわかりやすいだろう。
量子力学ではお馴染みの境界条件なので、ここで押さえておきたい。

 まず、一次元自由粒子の定常状態のシュレディンガー方程式を立てる。
 今回は外力がかかっていない自由粒子であるため\(V(x)=0\)である。
 よってシュレディンガー方程式は

\begin{align}
-\frac{\hbar^{2}}{2m}\frac{d^{2}}{dx^{2}}\varphi(x)=E\varphi(x) \tag{2}\label{自由粒子シュレ}
\end{align}

と書ける。

 (\ref{自由粒子シュレ})は典型的な微分方程式であり、通常の数学の問題であれば\(E\)の符号によって場合分けが必要だ。

 しかし一次元定常状態の場合は、外部ポテンシャルの最小値を\(V_{\text{min}}\)として\(E\geq V_{\text{min}}\)が成り立つため、今回の系では\(E\geq 0\)の場合のみを考えれば良い。

 

 \(k=\sqrt{2mE/\hbar^2} \)とすると\(-k<0\)であるため、(\ref{自由粒子シュレ})の一般解は\(C,D\)を任意定数として

\begin{align}
\varphi(x)=Ce^{ik x}+De^{-ik x} \tag{3}\label{E>0の一般解}
\end{align}

と求められる。

 ここで周期的境界条件(\ref{周期境界条件})に(\ref{E>0の一般解})を代入すると、下記2式が得られる。

\begin{align}
C+D=Ce^{ikL}+De^{-ikL} \tag{4}\label{E>0A+B} \\
C-D= Ce^{ikL}-De^{-ikL} \tag{5}\label{E>0A-B}
\end{align}

 この2式から、\(n\in\mathbb{Z}\)として\(k=2n\pi/L\)が得られる。
 さらに\(D=0\)としてよいので、波動関数は

\begin{align}
\varphi(x)=Ce^{i\frac{2n\pi}{L}x} \tag{6}\label{解1}
\end{align}

となる。
 (\(D=0\)としてよい理由は補足②を参照。)

 後は規格化条件\(\displaystyle{\int_{0}^{L}|\varphi(x)|^{2}\,dx=1}\)を使って任意定数\(C\)を求めればよい。

\begin{align}
\int_{0}^{L}|\varphi(x)|^{2}\,dx=C^{2}\int_{0}^{L}dx=C^{2}L=1 \qquad\therefore C=\frac{1}{\sqrt{L}} \tag{7}\label{C解}
\end{align}

 よって求める波動関数は

\begin{align}
\varphi_{n}(x)=\frac{1}{\sqrt{L}}e^{i\frac{2n\pi}{L}x}\qquad(n\in\mathbb{Z}) \tag{8}\label{最終解}
\end{align}

となる。

 さらに\(k=\sqrt{2mE/\hbar^2} \)および\(n\in\mathbb{Z}\)として\(k=2n\pi/L\)であるため、エネルギー固有値は

\begin{align}
\sqrt{\frac{2mE}{\hbar^2}}=\frac{2n\pi}{L} \qquad\therefore E_{n}=\frac{2\pi^{2}\hbar^{2}}{mL^{2}}n^{2}\qquad(n\in\mathbb{Z})\tag{9}\label{E解}
\end{align}

となる。

 以上をまとめると、求める波動関数およびエネルギー固有値は\(n\in\mathbb{Z}\)として、

\begin{align}
\begin{cases}
波動関数:\displaystyle{\varphi_{n}(x)= \frac{1}{\sqrt{L}}e^{i\frac{2n\pi}{L}x}} \\
エネルギー固有値:\displaystyle{E_{n}= \frac{2\pi^{2}\hbar^{2}}{mL^{2}}n^{2}}
\end{cases}
\end{align}

となる。

補足①

 試しに\(E<0\)の場合も考えてみよう。

 \(\kappa=-2mE/\hbar^2\)とすると、\(\kappa>0\)であるため、(\ref{自由粒子シュレ})の一般解は\(A,B\)を任意定数として

\begin{align}
\varphi(x)=Ae^{\kappa x}+Be^{-\kappa x} \tag{a1}\label{E<0の一般解}
\end{align}

と求められる。ここで周期境界条件(\ref{周期境界条件})を思い出して、(\ref{周期境界条件})に(\ref{E<0の一般解})を代入すると、下記2式が得られる。

\begin{align}
A+B=Ae^{\kappa L}+Be^{-\kappa L} \tag{4}\label{E<0A+B} \\
A-B= Ae^{\kappa L}-Be^{-\kappa L} \tag{5}\label{E<0A-B}
\end{align}

 この2式の解は\(A=B=0\)しかない。(詳細は「補足①」を参照。)
 これを(\ref{E<0の一般解})に代入すると\(\varphi(x)=0\)となる。 \(\varphi(x)=0\)なので当然、粒子の存在確率密度もまた \(|\varphi(x)|^{2}=0\)である。これは粒子が存在しないことを示している。すなわち、\(E<0\)の解は存在しないことがわかる。

補足②

 (\ref{E>0の一般解})において\(D=0\)としてよい理由だが、これはハミルトニアン\(\hat{H}\)と運動量演算子\(\hat{p}_{x}\)の交換関係に着目する。

 今回の系ではそれぞれ、\(\displaystyle{\hat{H}=-\frac{\hbar^{2}}{2m}\frac{d^{2}}{dx^{2}}},\,\displaystyle{\hat{p}_{x}=-i\hbar\frac{d}{dx}}\)であるため、

\begin{align}
[\hat{H},\hat{p}_{x}]=-\frac{\hbar^{2}}{2m}\frac{d^{2}}{dx^{2}}\left(-i\hbar\frac{d}{dx}\right)-\left(-i\hbar\frac{d}{dx}\right)\left(-\frac{\hbar^{2}}{2m}\frac{d^{2}}{dx^{2}}\right)=0
\end{align}

となって可換である。

 すなわち、この2つの演算子に共通する波動関数(同時固有状態)が存在する。

 しかし(\ref{E>0の一般解})に\(\hat{p}_{x}\)を作用させると、

\begin{align}
\hat{p}_{x}\varphi(x)&=-i\hbar\frac{d}{dx}(Ce^{ik x}+De^{-ik x}) \\
&=\hbar k(Ce^{ik x}-De^{-ik x})
\end{align}

となり、このままでは\(\varphi(x)\)は\(\hat{p}_{x}\)の固有状態にならない。

 \(\varphi(x)\)が\(\hat{p}_{x}\)の固有状態になるには、\(C=0\)もしくは\(D=0\)となればよく、このとき\(\varphi(x)\)は\(\hat{H}\)と\(\hat{p}_{x}\)の同時固有状態になる。

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終わりに

 一次元での一粒子系はあともう1つ、デルタ関数型ポテンシャルが存在する系を扱って終了にしようと思う。

 久々に復習したが、結構考え方を忘れている。

 一度時間をとってイチから勉強し直したい…

 

 END

 

 ※追記
 デルタ関数型ポテンシャルが存在する一次元での一粒子系の問題。

 

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