【微分方程式】導入②

微分方程式

 前回

にて、微分方程式の解はそれ単体では1つに決まらないことを見た。

 ここでは、1つの微分方程式のあらゆる解を統一的に表現する一般解を紹介し、最後に微分方程式の分類について見ていく。

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一般解

 実はこの一般解も、高校数学で登場済みだ。

 前回扱った微分方程式

\begin{align}
f'(x)=3x^{2}+4x-1 \tag{1}\label{biho1}
\end{align}

を不定積分した

\begin{align}
\boxed{f(x)=x^{3}+2x^{2}-x+C }\tag{2}\label{ippan1}
\end{align}

 これが(\ref{biho1})の一般解である。
 (\ref{biho1})の解は定数項の部分が不定であるため、その部分を任意定数(なんでもアリな定数)\(C\)で表し、(\ref{biho1})のすべての解を表現しているのである。
 \(f'(x)\)が多項式で表される場合、「\(f'(x)\)を不定積分せよ」という問題は「\(f(x)\)の一般解を求めよ」という問題と同義なのである。

 このように、一般解は不定な定数部分を任意定数で置き換え、あらゆる解をまとめて1つに表した解なのである。

 

 ここで、前回取りあげたもう2つの微分方程式の一般解を考えてみる。

 まずは

\begin{align}
\frac{df(x)}{dx}=-f(x) \tag{3}\label{biho2}
\end{align}

だが、この解としては「\(f(x)=e^{-x}\)」や「\(f(x)=3e^{-x}\)」、「\(f(x)=100e^{-x}\)」といったものがあることを見てきた。

 上記の解の形から考えると、どうやら\(e^{-x}\)の係数部分が不定であり、そこを任意定数に置きかえる、すなわち

\begin{align}
\boxed{f(x)=Ce^{-x}} \tag{4}\label{ippan2}
\end{align}

とすれば一般解となることがわかる。

あれ?
「\(f'(x)=3x^{2}+4x-1\)」のときみたいに、解の最後に任意定数を足して「\(f(x)=e^{-x}+C\)」とするのはダメなのか?

 結論から言うと不正解である。
 なぜかと言うと、「\(f(x)=e^{-x}+C\)」は(\ref{biho2})を満たさないからだ。
 「\(f(x)=e^{-x}+C\)」を\(x\)で微分すると「\(df(x)/dx=-e^{-x}\)」となって定数部分が消えてしまい、「\(f(x)=e^{-x}+C\)」の形には戻らない。
 「\(f(x)=e^{-x}+C\)」は一般解云々の前に、解としてそもそも不適なのである。

 

 続いて

\begin{align}
\frac{d^{2}f(x)}{dx^{2}}=-f(x) \tag{5}\label{biho3}
\end{align}

の一般解を考える。

 考え方としては、2回微分しても消えることなく残る定数部分を探せばよい。
 答えから言ってしまうと、その定数部分は三角関数の係数と位相部分に存在し、\(A\)と\(\phi\)を任意定数とした

\begin{align}
\boxed{f(x)=A\cos(x+\phi)} \tag{6}\label{ippan3}
\end{align}

が(\ref{biho3})の一般解になる。

ちょっと待て。
前回「\(f(x)=\sin x+\cos x\)」も解になると言ってたけど、(\ref{ippan3})には\(\sin x\)が含まれていないじゃないか。

 確かにぱっと見では\(\sin x\)が見つからないが、実は(\ref{ippan3})の中にちゃんと\(\sin x\)が隠されている。
 その証明には加法定理を使えばよく、(\ref{ippan3})を加法定理で展開すると、

\begin{align}
f(x)&=A\cos(x+\phi) \\
&=A(\cos x\cos\phi-\sin x\sin\phi) \\
&=(A\cos\phi)\cos x+(-A\sin\phi)\sin x
\end{align}

となる。
 後は\(A\cos\phi=-A\sin\phi=1\)を満たす\(A\)と\(\phi\)を具体的に求めてやれば\(f(x)=\sin x+\cos x\)となり、(\ref{ippan3})に含まれる解であることがわかる。

解に関する用語、性質のまとめ

 ここで、一般解も含めた微分方程式の解に関する用語やその性質について、必要最低限の事項をまとめておく。

 

 一般に、微分方程式は無数の解を持つが、それら無数の解をまとめて1つに書き表したものを一般解という。
 その一般解では、不定な定数部分は任意定数によって置き換えられている。
 そして任意定数の個数は、未知関数が1種類の一変数関数である場合、解くべき微分方程式の階数と同じになる。
 (「階数」とは、微分方程式に含まれる導関数の次数の最大値のことである。)

 例えば(\ref{biho2})は、未知関数が\(f(x)\)という1種類の一変数関数だけであり、階数は1であるため任意定数の個数は1個である。
 同様に考えれば、(\ref{biho3})では任意定数の個数は2個になる。

 

 また任意定数は、変数が0のときの関数値で置き換える場合が多い。

 例えば(\ref{biho2})の場合、一般解(\ref{ippan2})に\(x=0\)を代入すると\(f(0)=C\)となるため、一般解は

\begin{align}
f(x)=f(0)e^{-x} \tag{7}\label{ippan2-2}
\end{align}

と書き下せる。 

 今回の変数は\(x\)だが、変数が時間\(t\)である場合は、\(t=0\)は事象がスタートする時刻を指す場合が多いため、\(t=0\)での関数値を初期値と呼ぶ。
 物理の問題では、この初期値が具体的に与えられた状態で微分方程式を解き、一般解を出してから初期値を使って任意定数を決めるという解き方が定石だ。
 この初期値を決める物理的状態を初期条件、あるいは束縛条件と呼んだりするのである。

 

 そして、初期条件などから任意定数が具体的に求まった解を特解と呼ぶ。
 特解は微分方程式を満たすが、一般性は持たない。

 例えば「\(f(x)=3e^{-x}\)」は(\ref{biho2})の、「\(f(x)=\sin x+\cos x\)」は(\ref{biho3})の特解である。

 特解と言っても「特別な解」という意味ではなく、「個別の解」という意味であることに注意。

 

 最後に、微分方程式の解の重要な性質をもう1つ。
 解の種類に依らず、同じ微分方程式の解の重ね合わせもまた解になる。

 例えば(\ref{biho3})の解として「\(f(x)=2\sin x\)」と「\(f(x)=\sin(x-a)\)」があるが、これらを足し上げた「\(f(x)=2\sin x+\sin(x-a)\)」もまた(\ref{biho3})の解になる。

微分方程式の分類

 ここで、いままでおざなりにしていた微分方程式の分類についてまとめておく。

 

 まず、未知関数の変数の個数が一変数の場合は常微分方程式、多変数の場合は偏微分方程式と呼ぶ。

 今まで扱ってきたのはすべて常微分方程式だったわけだ。
 今後扱う微分方程式も、基本的にはほとんど常微分方程式になると思ってよい。

 

 微分方程式に含まれる導関数の項の最大階数が\(n\)であるとき、その微分方程式は\(n\)階の微分方程式であるという。

 例えば(\ref{biho3})の場合、含まれる導関数の項の最大階数は2であるため、二階の微分方程式である。

 

 微分方程式の中で、未知関数とその導関数の二次以上の項を含まない場合、その微分方程式は線形微分方程式であるといい、それ以外を非線形微分方程式であるという。

 例えば下記の微分方程式

\begin{align}
8x^{2}\frac{d^{2}f(x)}{dx^{2}}+3e^{-6x}\frac{df(x)}{dx}+5f(x)=\sin^{2}\left(x+\frac{\pi}{7}\right) \tag{8}\label{senkei}
\end{align}

は二階の微分方程式であり、未知関数\(f(x)\)とその導関数の二次以上の項を含まないため、二階の線形微分方程式である。
 上記のように未知関数や導関数の項に別の関数がかかっていてもよい。

 これが、例えば未知関数の項が二次になる、すなわち

\begin{align}
8x^{2}\frac{d^{2}f(x)}{dx^{2}}+3e^{-6x}\frac{df(x)}{dx}+5\{f(x)\}^{2}=\sin^{2}\left(x+\frac{\pi}{7}\right) \tag{9}\label{hisenkei}
\end{align}

といった形になると、二階の非線形微分方程式になる。

注意
「n階」と「n次」の違いをはっきりさせておく。

n階:n回微分する。
(例) \(\displaystyle{\frac{d^{2}f(x)}{dx^{2}}}\):\(f(x)\)の二階微分。

n次:同じものをn回かける。
(例) \(x^{3}\):\(x\)の三次の項。 \(\left\{\displaystyle{\frac{df(x)}{dx}}\right\}^{2}\):\(f(x)\)の一階微分\(\displaystyle{\frac{df(x)}{dx}}\)の二次の項。

 

 線形微分方程式の中でもさらに、未知関数とその導関数の一次の項だけを含むものを、斉次の線形微分方程式(線形斉次の微分方程式)と呼び、それ以外のものを非斉次の線形微分方程式(線形非斉次の微分方程式)と呼ぶ。

 上で挙げた(\ref{senkei})は、未知関数とその導関数の一次の項以外の項\(\displaystyle{ \sin^{2}\left(x+\frac{\pi}{7}\right) }\)を含むため、非斉次の線形微分方程式である。

 これが、\(\displaystyle{ \sin^{2}\left(x+\frac{\pi}{7}\right) }\)の項がなくなる、すなわち

\begin{align}
8x^{2}\frac{d^{2}f(x)}{dx^{2}}+3e^{-6x}\frac{df(x)}{dx}+5f(x)=0 \tag{10}\label{seijisenkei}
\end{align}

となれば、未知関数とその導関数の一次の項しかないため、斉次の線形微分方程式になる。

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終わりに

 以上で、微分方程式の導入編は終了にする。

 聞き慣れない用語がたくさん出てきたが、今後微分方程式の解法を見ていく中で覚えていけばよい。

 次回以降は、物理の問題を解く上でよく用いる微分方程式の解法を順次紹介していく。

 

 END

 

 ※追記
 微分方程式の解法第1弾「変数分離形」執筆。

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