今回から、微分方程式の具体的な解法を詳しく見ていく。
まずは、一階の常微分方程式の代表的な解法である変数分離の方法から取り上げる。
具体例
普通の教科書なら一般論から先に展開するが、ここではあえて具体例を見せて、変数分離の方法の強力さを見てもらおうと思う。
下記のような微分方程式を考える。
\begin{align}
\frac{dy(x)}{dx}=\frac{2y(x)-5}{\cos^{2} x} \tag{1}\label{rei1}
\end{align}
求めたい関数は\(y(x)\)なわけだが、右辺に\(1/\cos^{2}x\)が入っていて一見解くのが難しそうに見える。
しかしこういう微分方程式こそ、変数分離の方法でちゃちゃっと解けてしまう。
以下、いろいろとツッコミどころ満載な解法になるが、まずは見ててもらいたい。
まず(\ref{rei1})を下記のように変形する。
\begin{align}
\frac{1}{2y(x)-5}dy(x)=\frac{1}{\cos^{2}x}dx \tag{2}\label{rei2}
\end{align}
左辺の\(dy(x)/dx\)を分数のように扱って\(dx\)を右辺に、逆に右辺の分子を左辺へ持ってきたわけだ。
ここで、\(y(x)\)が関数であることを忘れてただの変数の\(y\)とし、両辺に積分記号をくっつける。
\begin{align}
\int\frac{1}{2y-5}dy=\int\frac{1}{\cos^{2}x}dx \tag{3}\label{rei3}
\end{align}
そしてそのまま式に従って、左辺を\(y\)で、右辺を\(x\)で不定積分する。
\begin{align}
\frac{1}{2}\log |2y-5|+C_{1}=\tan x+C_{2} \tag{4}\label{rei4}
\end{align}
ここまでくればしめたもので、後は\(y\)を\(y(x)\)に戻し、\(y(x)\)について適切に式変形を進めていけば、最終的には下記のような解が得られる。
\begin{align}
y(x)=Ce^{2\tan x}+\frac{5}{2} \tag{5}\label{rei5}
\end{align}
補足(読み飛ばしてもよい。)
(\ref{rei4})のから(\ref{rei5})への式変形の詳細を示しておく。
まず\(y\)を\(y(x)\)に戻し、\(C_{3}=C_{2}-C_{1}\)として下記のように式変形する。
\begin{align}
\log|2y(x)-5|=2(\tan x-C_{3}) \tag{a1} \label{reia1}
\end{align}
\(\log\)の定義を思い出せば、(\ref{reia1})は下記のようになる。
\begin{align}
|2y(x)-5|=e^{2(\tan x-C_{3})} \tag{a2}\label{reia2}
\end{align}
よって\(C_{4}=\pm e^{-2C_{3}}\)とし、(\ref{reia2})の右辺の絶対値を外して変形してやれば、
\begin{align}
y(x)=\frac{1}{2}(C_{4}e^{2\tan x}+5) \tag{a3}\label{reia3}
\end{align}
となる。
(絶対値の中身が正であれば\(C_{4}=+e^{-2C_{3}}\)、逆に負であれば\(C_{4}=-e^{-2C_{3}}\)になる。)
最後に(\ref{reia3})の右辺を展開して\(C=C_{4}/2\)としてやれば(\ref{rei5})になる。
(\ref{rei5})は一階の常微分方程式の解であり、任意定数を1つ含むため一般解である。
実際に(\ref{rei5})を(\ref{rei1})に代入すると、ちゃんと(\ref{rei1})を満たすことがわかる。
乱暴な計算の種明かし
ここで(\ref{rei5})を出すまでの過程をまとめてみると、下記のような感じだった。
① \(y(x)\to y\)とし、元の微分方程式を「\(g(y)dy=f(x)dx\)」の形に変形する。
② 両辺に積分記号をつけて「\(\int g(y)dy=\int f(x)dx\)」とし、両辺を不定積分する。
③ \(y\)を\(y(x)\)に戻し、最もシンプルな形になるまで整理する。
要は、導関数\(dy(x)/dx\)を左辺右辺に分けて、各辺に\(y\)および\(x\)の関数を集めて不定積分するだけなのだ。
このように左辺と右辺で変数が分離されることから変数分離の方法と呼ばれ、このように変形できる微分方程式の形を変数分離形と呼ぶ。
一見するとかなり乱暴な計算をしているように見えるが、この計算は間違いではない。
それを確かめるために、(\ref{rei1})の微分方程式を一般化して下記のように書く。
\begin{align}
\frac{dy(x)}{dx}=\frac{f(x)}{g(y(x))} \tag{6}\label{ippan1}
\end{align}
(\ref{rei1})の場合、\(f(x)=1/\cos^{2}x,\,g(y(x))=1/\{2y(x)-5\}\)である。
ここで右辺の\(g(y(x))\)を左辺にもってくる。
\begin{align}
g(y(x))\frac{dy(x)}{dx}=f(x) \tag{7}\label{ippan2}
\end{align}
(\ref{ippan2})には\(x\)の関数しか含まれていないため、両辺を\(x\)で積分しても何も問題はない。
\begin{align}
\int g(y(x))\frac{dy(x)}{dx}dx=\int f(x)dx \tag{8}\label{ippan3}
\end{align}
(\ref{ippan3})の左辺の形に見覚えはないだろうか。
この形、高校数学で登場する置換積分の公式そのものである。
通常の置換積分では、\(g(y)\)を\(y\)で積分するのが困難であるため、別の変数\(x\)で\(g(y)\)の\(y\)を含む一部を置き換えた上で\(x\)で積分する。
だが今回は、\(g(y)\)が\(y\)で直接積分できる形になっているから、わざわざ置換積分するまでもないわけで
\begin{align}
\left.\int g(y)dy\right|_{y=y(x)}=\int f(x)dx \tag{9}\label{ippan4}
\end{align}
としてやればよい。
(\ref{ippan4})は(\ref{rei3})を一般化したものに他ならない。
具体例で見てきた一見乱暴に見える式変形は、実は真っ当な式変形を省略しているだけだったのだ。
物理での使用例
以前書いた空気抵抗を含む水平投射の記事で、変数分離の方法を使っている。
終わりに
変数分離の方法は、一見複雑な微分方程式でも短時間で解けてしまう非常に強力な解法である。
どこかでとっつきづらい微分方程式に出くわしたら、まずは変数分離形か否かを調べるだけでも無駄ではない。
次回は定数係数の線形斉次の常微分方程式に着目し、その定石の解法について書こうと思う。
END
※追記
定数係数の線形斉次の微分方程式の解法について執筆。
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