前回
からの続き。
今回は応用編。
とは言っても、内容を端的に言うと「連立1次方程式を行列を使って楽に解いてみよう」という話だ。
一般論
\(x_{1},x_{2},\cdots,x_{d}\)を変数とする連立1次方程式
\begin{align}
\begin{cases}
a_{1,1}x_{1}+a_{1,2}x_{2}+\cdots+a_{1,d}x_{d}=p_{1}\\
a_{2,1}x_{1}+a_{2,2}x_{2}+\cdots+a_{2,d}x_{d}=p_{2}\\
\qquad\qquad\qquad\quad\vdots \\
a_{d,1}x_{1}+a_{d,2}x_{2}+\cdots+a_{d,d}x_{d}=p_{d}\\
\end{cases}\tag{1}\label{renritu1}
\end{align}
を考える。これを下記のように、行列とベクトルを使って書き直す。
\begin{align}
\begin{pmatrix}
a_{1,1} & a_{1,2}& \cdots & a_{1,d} \\
a_{2,1}& a_{2,2}&\cdots&a_{2,d}\\
\vdots & \vdots & \ddots& \vdots \\
a_{d,1}&a_{d,2}&\cdots&a_{d,d}
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x_{1}\\x_{2}\\ \vdots\\x_{d}
\end{pmatrix}=
\begin{pmatrix}
p_{1}\\ p_{2}\\ \vdots\\ p_{d}
\end{pmatrix}\qquad\Longrightarrow\qquad \mathsf{A}\vec{x}=\vec{p} \tag{2}\label{renritu2}
\end{align}
よって行列\(\mathsf{A}\)の逆行列を\(\mathsf{A}^{-1}\)として、(\ref{renritu2})の両辺に左側からかければ
\begin{gather}
\mathsf{A}^{-1}\mathsf{A}\vec{x}=\mathsf{A}^{-1}\vec{p}\\
\mathsf{I}\vec{x}=\mathsf{A}^{-1}\vec{p}\\
\vec{x}=\mathsf{A}^{-1}\vec{p} \tag{3}\label{renritu3}
\end{gather}
となり、逆行列\(\mathsf{A}^{-1}\)を\(\vec{p}\)に左側からかければ解を得ることができる。
この解法の強みは、変数の数(方程式の数)に依存せず、逆行列さえ求めれば瞬時に答えに辿り着けるところにある。
変数2つの連立1次方程式ではあまりありがたみを感じないかもしれないが、変数が3つの場合はこの解法がその威力を発揮する。
具体例
実際に逆行列を利用して連立方程式を解いてみる。
練習問題
次の連立1次方程式を解け。
\begin{align}
(1)\quad\begin{cases}
6x+5y=-7\\
x-y=8
\end{cases}\qquad\quad
(2)\quad\begin{cases}
-x+y+3z=-6\\
-7x+8y+6z=5\\
y+2z=-4
\end{cases}
\end{align}
解答(1)
連立方程式を行列とベクトルで書き直すと、
\begin{align}
\begin{pmatrix}
6&5\\
1&-1
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}=
\begin{pmatrix}-7\\8\end{pmatrix}\qquad\Longrightarrow\qquad\mathsf{A}\vec{x}=\vec{p}
\end{align}
と書ける。ここで行列\(\mathsf{A}\)の逆行列を求めると、
\begin{align}
\mathsf{A}^{-1}=\frac{1}{-6-5}\begin{pmatrix}
-1&-5\\
-1&6\\
\end{pmatrix}=
\frac{1}{11}\begin{pmatrix}
1&5\\
1&-6
\end{pmatrix}
\end{align}
となるため、これを利用すると、
\begin{gather}
\vec{x}=\mathsf{A}^{-1}\vec{p}\\
\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}=\frac{1}{11}\begin{pmatrix}
1&5\\
1&-6
\end{pmatrix}\begin{pmatrix}-7\\8\end{pmatrix}=\frac{1}{11}\begin{pmatrix}
-7+40\\
-7-48
\end{pmatrix}=\frac{1}{11}\begin{pmatrix}33\\-55\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}3\\-5\end{pmatrix}
\end{gather}
となる。よって、求める解は\(x=3,y=-5\)となる。
解答(2)
連立方程式を行列とベクトルで書き直すと、
\begin{align}
\begin{pmatrix}
-1&1&3\\
-7&8&6\\
0&1&2
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}x\\y\\z\end{pmatrix}=
\begin{pmatrix}-6\\5\\-4\end{pmatrix}\qquad\Longrightarrow\qquad\mathsf{A}\vec{x}=\vec{p}
\end{align}
と書ける。ここで行列\(\mathsf{A}\)の逆行列を求めると、
\begin{align}
\mathsf{A}^{-1}=\frac{1}{17}\begin{pmatrix}
-10&-1&18\\
-14&2&15\\
7&-1&1
\end{pmatrix}
\end{align}
となるため、これを利用すると、
\begin{gather}
\vec{x}=\mathsf{A}^{-1}\vec{p}\\
\begin{pmatrix}x\\y\\z\end{pmatrix}=\frac{1}{17}\begin{pmatrix}
-10&-1&18\\
-14&2&15\\
7&-1&1
\end{pmatrix}\begin{pmatrix}-6\\5\\-4\end{pmatrix}=\frac{1}{17}\begin{pmatrix}
-17\\
34\\
-51
\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}-1\\2\\-3\end{pmatrix}
\end{gather}
となる。よって、求める解は\(x=-1,y=2,z=-3\)となる。
終わりに
今回紹介した逆行列を応用した解法はあくまで解法の1つであって、毎回これを使う必要はない。
うまい計算方法を見つけ出すのが早いか、何も考えずに逆行列を求めるのが早いか、それは問題によるだろうから、解きやすい方法で解けばよい。
それでも、変数が4以上の場合は何も考えず逆行列を求めてしまった方が早いと思う。
(前回紹介したガウスの消去法は任意のd次の正方行列で適用可能である。)
次回は完全に暗記系の記事になるが、今後登場する特殊な行列を紹介しようと思う。
END
※追記
今後必要な知識となる、特別な行列の記事を執筆。
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