【書評】南直哉「恐山:死者のいる場所」

書籍

 一回は行ってみたい。

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概要

 恐山菩提寺院代・南直哉による思考反芻録。

 恐山に身を置いてから南院代が問い続けてきた「恐山にあるモノの正体は何か?」「死者とはどういう存在なのか?」という問題。

 のべ7年に渡って問い続けた結果をまとめたものが本書である。

 加えて、恐山の歴史やイタコとの関係、南院代の永平寺入門から現在に至るまでの半生、葬式仏教への警鐘等、幅広いテーマを並べて読者を飽きさせない一冊となっている。

レビュー

 この本は学生時代に読んだ本の内の一冊だ。

 南院代と言えば、歯に衣着せぬコメントが注目され、一時期テレビ番組にもよく出演されていたお坊さんである。

 リアルタイムで自分も南院代をテレビで見ており、かなり興味深く「面白い人がいるな」と印象に残っていた。

 その印象が残る中、書店でたまたま見つけたのが本書である。

 

 リアルタイムで視聴していた人ならわかるだろうが、南院代はいわゆる普通のお坊さんではない。

 本書を読むとそれが良くわかる。

 まずこのお坊さん、「信仰」というものを持っていない。

 そもそも南院代にとって、仏教は自分が抱える問題を解決するためのツールでしかない。
 (しかも仏教が問題を解決する確信があったわけではなく、それこそ神頼みで仏門に入ったらしい。)

 仏教の捉え方が根本的にほとんどのお坊さんと違っているから、異端児とみなされても仕方ないし、本人ももちろんそれは自覚済みだ。

 だがだからこそ、南院代は第三者的な視点で仏教と社会との関係を俯瞰できるし、仏教に固執することなく恐山への適切な(と自分は思っている)考察を進めることができるのだろう。

 

 刊行は今から10年前だが、今読み進めても全く違和感は無い。

 最初読んだときには印象に残らなかったが、今回読んで改めて「なるほどな」と感服したものもある。

 文章も語り口調ながらも洗練されていて、抵抗なく頭の中に入ってくる。

 このことは南院代が思考の達人であり、その内容がしっかり頭の中で整頓されていることの証左とも言える。

 ショウペンハウエルの「読書について」を思い出す。

 まさに自分の思索で獲得した知見を自在に使いこなせている状態だ。

 

 以下、印象に残っている内容を列記していく。

〇夭折した赤ん坊は1つの大きな仕事をして死んでいく。それは一組の夫婦を父親と母親にすること。そして2組の夫婦を祖父と祖母にすることだ。

〇魂とは自分が生きる意味や価値を指し、人との縁で育てるものである。

〇親子関係が「言うことを聞くなら愛してあげる」という「取引」になるとアウト。母親が過保護で囲い込むか、父親が家庭内の独裁者の2パターンがほとんど。

〇「あなたがいるだけで嬉しい」と言ってくれる他人は宝物。苦しいときに傍にいてくれた人も大事にすべき。

〇人は死ぬと、その人が愛したもののところへ行く。人を愛したならその人の中に、仕事を愛したならその仕事の中に入っていく。愛したものは死者を意識せずとも思い出す。愛したものの中に死者は確実に存在している。

〇恐山は、人が抱えた死や死者への想いを吸収するパワーレス・スポットである。

〇死者は生者に「死」という生者には決定的に欠落しているものを与える。そして恐山は、生者にその欠落を否応なしに気づかせてしまう場所である。

〇宗教者に必要な素質は、自分自身の存在に対する根源的な不安を持っていることであり、同じ不安を持つ他者に共感し、寄り添えることである。

〇最適な死者の供養は「死者を想い出すこと」である。

〇生者の存在が希薄になっている現代において、死者の存在も希薄になるのはごく自然なこと。仏教の葬儀に拘る人が減ってきているのもこのため。死者の在り方が変われば、死者儀礼の在り方も変わる。これまでの仏教の葬儀の意義を唱えても意味が無いから、今の時代において最適な葬儀とは何かを葬式仏教は一から考え直さないといけない。

〇四十九日とはよくできたもので、表向きは死者が冥土に旅立つまでの準備期間だが、実際は生者が心の整理をつける、死者の存在を受け入れるための猶予期間でもある。

〇生産と消費と交換で成り立つ「近代社会」は、これらを行えず、また原理的に管理しきれない「死者」を排除した。しかし今、特に日本は少子高齢化を迎え、大量の死が待つ未来がすぐ傍に来ている。近い将来訪れる大量の死と対峙するには、今の近代社会のシステムの更新ではなく、死者を想い、死者を語る作法を身につけ直す必要がある。

 詳細な内容は実際に本を参照願いたい。

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終わりに

 実家から昔読んだ本を移したので、当分読書のネタに事欠くことは無くなった。

 ただまたまた資格試験の勉強中で、本にかける時間はそこまで割けない。

 それでも期間を空けることなく継続的に読み続けていければと思う。

 

 END

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