【書評】千正康裕「ブラック霞が関」

書籍

 国会議員の必読書にすべきでは?

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概要

 元厚労省官僚・千正康裕が霞が関(中央省庁の労働体制)の実態を赤裸々に綴った上で、中央省庁の働き方の改善方針と国会運営の本来あるべき姿を説く提言書。

 著者が厚労省に入省した2001年から退官した2019年に至るまでのキャリアを振り返りつつ、中央省庁における労働環境の変化、官僚が積むべき経験、現時点で中央省庁の労働環境が「ブラック」となってしまった要因をまとめている。

 そしてその上で、官僚が本来の職務である政策立案・執行を国民の意思を十分把握した上で実行するために、まず中央省庁がすべきこと、そして国会(政治家)がすべきことを具体的に提言する。

レビュー 

 4日で読み終えた。

 もっと早くに読んでおけば、と後悔している。

 

 なぜ、最近中央省庁の不祥事が頻発しているのか。

 なぜ、我々からすると「そうじゃないんだよ」と言いたくなる政策が最近打ち出されているのか。

 なぜ、新型コロナウィルス対策が後手後手に回ってしまったのか。

 なぜ、国会議員は国会での質疑応答で官僚の手助けが要るのか。

 色々疑問に思っていたことがこの本で全て解決した。

 

 冒頭にも書いたが、官僚の本分は政策の立案と執行だ。

 そして、この政策を国民の目線に立って立案するには、現場に足を運んで、政策の対象者がどのようなバックボーンを持っているかを知り、何を必要としているのかを引き出すことが必要だ。

 これは、著者の実体験を踏まえた経験則である。

 しかし、中央省庁のブラック化により、官僚たちが現場に足を運ぶ時間の余裕が無くなってしまった。

 これが、最近見る政策の内容と国民の要望の不一致の要因となっている。

 

 不祥事の頻発も、緊急時の後手対応も、ブラック化した中央省庁の労働体制が招いたもの。

 なぜ中央省庁はブラック化したのか。

 まず、全省庁共通の要因として日程闘争政治、特に著者が所属していた厚労省の場合は不適切な人員配置がブラック化の原因である。

 

 日程闘争政治とは、与野党の委員会や法案の審議会の日程を決定する際に行われる駆け引きを指す。

 与党は法案を国会に提出する前に、各委員会や審議会で党内合意を形成し、国会での法案採決時には与党員が賛成票を必ず投じるように調整する。
 (これはどうやら55年体制時に始まったものらしい。)

 つまり、与党側にとっては「やった者勝ち」の状況なのである。

 こうなると野党側は、国会での法案採決に持ち込まれたら終わりなので、国会会期終了まで法案採決まで持ち込ませないよう悪あがきするしかない。

 例えば、委員会の日程が決まると、委員会前に内閣不信任案などを国会に提出して委員会を先送りにする、なんてことをやるわけだ。

 与党はと言えば、こういった日程の先送りを防ぐために、委員会日程の決定から開催当日までの期間をなるべく短くして、野党につけ入る隙を与えないようにする。

 すると何が起きるか?

 日程決定から僅かの日数で委員会開催のための資料準備や、国会議員からの質問の答弁書作成、質問対応者である大臣へのレクチャーといった職務を全うしなければならない。

 これらは全て官僚の職務である。

 この結果、委員会や審議会の前日夜に国会議員からの質問が舞い込み、徹夜で答弁書を作成して翌日朝に大臣へのレクチャー、といった労働環境が日常化する。

 著者曰く、この国会議員の質問に対する答弁書作成、加えて各会議の場でできなかった質問に対する回答である質問主意書の作成がブラック化の主たる要因だという。

 

 そして、不適切な人員配置についてだが、これは昭和50年代の行政改革による各省庁の人員配置の見直しが引き金になっている。

 当時、各省庁において本当に必要な人員の見直しが図られ、過剰人員の省庁は人員削減となった。

 この人員削減の対象となった省庁の内の1つが当時の厚生省、労働省だった。

 当時は終身雇用が確約されて失業率が低く、一世帯あたりも人数も多く地域ネットワークも強力に機能していたため、通常の生活を送ることが困難な人が顕在化しにくく、行政の負担も小さかったのだ。

 しかしそれから40年が経過した現在は、正に上述した「通常の生活を送る人が困難な人」が増え、これに付随する問題も多く顕在化するようになった。

 しかし、厚労省の人員は昭和50年代の人員削減以降から大きく変わっていない。

 必然的に一人当たりの業務量が多くなり、キャパオーバーが常態化する。

 これが、今の厚労省で起きていることだと言う。

 

 これらの他にも改善すべき部分は数多くあり、著者は人員配置の見直しも必要だが、まずは業務そのもののの見直しが必要だと述べる。

 明らかに時代遅れの慣例も多く、個人的にも業務見直しは最優先すべき課題と思う。

 

 そして、日程闘争政治のくだりで述べた、国会議員からの質問の回答を官僚が作る工程だが、はたから見ると出来レースに見える。

 しかし、質問回答者である大臣が各法案内容を全て熟知しているわけではないため、この工程なしで会議を開催すると質疑応答の大半が「持ち帰って検討します。」になり、議論が一向に先に進まないという事態になる。

 事前質問制は、会議を有意義に進めるために必要な制度というわけだ。

 言われてみればその通りだが、個人的にはこの制度に大臣たちが甘えてしまってはいないか、つまり「自分が理解してなくとも会議は進む」と自分が法案内容を理解する努力を怠っていないかは気になる所ではある。

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終わりに

 良い本に会うには読むしかないんだなと改めて思う。

 一冊でもこういう本を見つけていきたい。

 個人的には理系関係(特に電気関係)の読み物でこういう本欲しいんだけど、読み物じゃあ難しいか…

 

 END

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