【書籍】小貫信昭「Mr.Children 道標の歌」

Mr.Children

 今更ながら。


概要

 音楽評論家の小貫信昭が満を持して執筆した、Mr.Childrenのバンド伝記。

 小貫氏はMr.Childrenの4枚のベストアルバム「肉」「骨」「micro」「macro」のライナーノーツも手掛けている。

 これまで、彼らの半生や作曲秘話などは雑誌やテレビなどの口頭取材ではで明かされてきたものの、それらをまとめ上げた書籍は刊行されていなかった。

 それらの記録を整理した上で、新たな取材で得られたエピソードも織り交ぜて世に送り出されたのが本書である。

私見

 休日に一気に読み切った。

 

 ぶっちゃけ、本書で語られている曲の制作秘話に関しては既知のものも多かった。

 「innocent world」や「Tomorrow never knows」に関してはかなり有名な話だろう。

 「花-Memento Mori-」と「ロードムービー」のメロディーが降ってくるまでの過程は、ライブのMCで桜井さん自ら話していたことだ。

 「足音~Be Strong」と「Starting Over」の誕生過程などは、テレビのドキュメンタリー番組でその模様が実際に放送されている。

 だがこう言った既知の情報をまとめ上げるのも本書の役割であって、新規のファンが既出の情報を自分で見つけに行く手間が省けるのは大きい。

 

 もちろん、新たな発見もあった。

 「名もなき詩」の公式解説は「骨」のライナーノーツでしか見たことが無かったため、興味深く読むことができた。
 (ライナーノーツの内容は「歌入れが終わるまで死にたくない」という部分を除いて完全に忘れている。他にも多分被っている部分があるだろう。)

 特に歌い出しの部分については、なぜあの歌詞になったのか常々疑問を抱いていたが、本書によって疑問が解消された。

 他にも「名もなき詩」と言えば、関連する下記の記述がある。

作曲家の桜井とボーカリストの桜井は、一心同体のようで実は違う。作曲家の情熱が勝れば、ついついボーカリストの自分へ試練を与えることにもなる。

小貫信昭「Mr.Children 道標の歌」

 上記記述自体は「innocent world」の制作過程の解説で書かれているものだ。

 作曲していざ歌ってみると思っていたよりキーが高く、レコーディング時に苦労するという話を受けての記述だ。

 実は以前のテレビ番組で、桜井さんは「名もなき詩」で上記と同じことをやってしまったという話をしている。
 (「SUPERMARKET FANTASY」に関する番組だったと思う。)

 「innocent world」の頃からこういうことがあったのだと本書を読みながら改めて知った。

 

 シングル曲については、他にも「終わりなき旅」に関しては1章の半分ほどを割いて、歌詞への苦悩、9回の転調が生まれたきかっけ、ボーカルのOKテイクの秘話、若者に向けたメッセージの存在などが書かれ、非常に新鮮で興味深かった。

 

 また本書において新たな発見が多かったのは、アルバムに関してだ。

 「深海」の制作過程、「Q」や「シフクノオト」の命名理由など新しい話に触れることができた。

 

 特に興味深かったのが「SENSE」に関する解説だ。

 自分自身、この「SENSE」には非常に思い入れがある。

 彼らが「DOME TOUR 2009 〜SUPERMARKET FANTASY〜」を終えた頃、私は完全に彼らの虜になっていた。

 ツアーが終われば、次は新譜の発表だ。

 おそらく前作と同様に、2枚ほどシングルを出してからアルバムの告知があるだろうとその発表を心待ちにしていた。

 しかし待てど暮らせど、新譜の発表どころか、彼らが動いている気配すら微塵も感じられない。

 そんなやきもきする期間が10ヶ月ほど続いて「Split the Difference」が発表され、その2ヶ月後にようやくアルバム「SNESE」がお披露目となった。

 一日千秋の思いで待ち続けて手に入れたアルバムを再生し、1曲目に「I」が流れた時の衝撃は今でも覚えている。

 このかつてないプロモーションはどのような目的で敢行されたのか、ずっと気になっていた。

 本書ではその理由やアルバムの制作過程まで、初めて明かされる部分も織り交ぜながら解説されている。

 個人的には、アルバムの方向性を決定づけた曲の1つが「I」だったことに驚き、少し嬉しく感じた。

 

 作品に関してだけでなく、彼らの方向性や考え方についても印象に残った部分がある。

 まず多様な顔を有し、型にはまらない作品作りのスタイルを、実はメジャーデビュー前から意識して確立しようとしていたことが意外だった。

 曲の多様性からもわかるように、Mr.Childrenというバンドは「型にはまらまい」

 大概は、このバントと言えばラブソング、このバンドと言えば夏うた、というようにバンドそのものが何らしらカテゴライズされ、その印象が世間に染み付くことが多い。

 Mr.Childrenはそれがない。

 ロックもやる、ポップもやる、バラードもやる、テクノもやる。

 そしてそのどれもが一級品。

 多面性を持ち合わせることで聴衆の飽きを防ぎ、かつ性別年齢に関係なく幅広い支持層を得ている。

 このバンドの方向性の軸は、メジャーデビュー前に既に確立されていたのである。

自分たちの殻を破りたいなら、曲作りにおいて新たな地平を目指すしかない。実際は、非常に難しいことだ。殻を破るまでには至らず、これまでの改良型に甘んじる場合が多いだろう。しかし桜井は、そこにある楕円を真四角に変えるくらいの大胆な勇気を持ち、まったく未体験の景色を、バンドのなかに持ち込もうとした。

小貫信昭「Mr.Children 道標の歌」

 

 さらに歌詞に関して、ファンなら一度は感じたことがあるであろう事項にも桜井さんが明言している。

 2番の歌詞についてだ。

 ファンの間では「ミスチルは2番の歌詞が深い」「桜井さんが本当に伝えたいことは2番の歌詞に綴られている」ということが共通認識として定着している。

 例えば「名もなき詩」の

愛はきっと奪うでも与えるでもなくて
気が付けばそこにある物

Mr.Children「名もなき詩」

などだ。

 実はこの歌詞の配置の仕方を意図的に実施していることを、桜井さんが明言している。

「そもそも1番というのは、聴いてくれる人の耳に飛び込んでいく表現が必要で、そこで手を差しのべて、もし自分の手を握り返して好きになってくれたのなら、今度は2番で、より深く伝えたいことを書くようにしている」(桜井)

小貫信昭「Mr.Children 道標の歌」

 色々な曲を聴いていて「意図して書いてるんだろうな」とは思っていたが、実際に明言されたことですんなり腑に落ちたし、嬉しくも感じた。

終わりに

 本書が刊行されてから既に1年以上が経過し、今更読むものでもないかと思っていたが、実際に読み進めると止まらなかった。

 彼らの生い立ちから2020年までを綴った本作品。

 2022年にデビュー30周年を迎え、アニバーサリープロモーションが各方面で展開されるであろうことを考えると、刊行のタイミングとしてはちょうど良い。

 Mr.Childrenに魅了され始めた人がこの本を読んで曲を聴き直し、さらに彼らの虜になったところでデビュー30周年のお祭りに参戦できるわけだ。

 次に似たような書籍が刊行されるなら30年後だが、それまで彼らが健在でいる保証はどこにもない。

 おそらく次に刊行されるタイミングは、何らかの形で彼らが終わりを迎えるときだろう。

 本音を言うと、彼らに関しては新譜は以前ほど強く望んでいない。

 自分としてはただ、彼らがつつがなく元気な姿を見せ、成熟しつつも力強い演奏でたくさんの人を魅了し続けて欲しい。

 

 END


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