【書評】篠田達明「徳川将軍家十五代のカルテ」

書籍

 一石二鳥は素晴らしい。

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概要

 医師・篠田達明が徳川歴代将軍の既往歴を探り、死因を考察した診断記録。

 文献に記された徳川歴代将軍の病歴から各将軍の健康状態、臨終の様子からその死因を現代医学の知見に基づいて考察している。

 診断対象は将軍だけでなく、将軍の正室、側室、著名な血縁者(水戸光圀公など)にも及び、人間関係や当時の文化、衛生環境にも触れ、独自の視点から史実の裏にある因果関係を紐解く。

レビュー

 新潮新書大人買いした内の一冊。

 「カルテ」の表題通り、内容は徳川歴代将軍の既往歴と死因の考察が主だが、同時に当時の世情や文化にも簡潔に触れており、江戸時代の歴史を俯瞰できる面でも良書である。

 内容からして必然的に徳川家の歴史にも焦点が当たり、次期将軍決定の経緯、家臣との関係といった江戸幕府内の内情も知ることができる。

 個人的には、忠臣蔵関係者(浅野内匠頭、吉良上野介など)、大岡越前、田沼意次、水野忠邦などがどの将軍と同時代なのかがわかったのがありがたかった。

 医学と歴史の両方を本書一冊で押さえられる、一石二鳥の書籍である。

 

 個人的に最も興味深かったのが、九代家重と十三代家定の脳性麻痺診断だ。

 脳性麻痺特有の行動の記述と、肖像画に見える顔の特徴から診断結果を確実にしていく過程は唸らされる。

 あとがきでは、こうした患者の症状を自分の目で観察した上で該当し得る疾病を絞りこむことの重要性を説いており、現代では医療機器の発達によって機器検査結果に重点が置かれた診療が多くなっていることに警鐘を鳴らしている。

 自分の現代医療のイメージは正に後者であり、それが普通だと思っていたが、機器検査結果で診断が下せるなら極端な話AIでも医師の代わりが務まるだろう。

 本書の刊行は2005年であり、まだAIのブレイクスルーが起きていない時期であるため、今のAIが医療業界にも浸透している現代で著者が何を思うのかは気になるところ。

 

 全体的に面白いのは疑いないが、たびたび段落の最後に想像や空想でオチをつける部分があり、読者の好みが分かれそうなところだ。

 字数稼ぎで書いたのか、読者を飽きさせないよう工夫を凝らしたつもりなのか真意は不明だが、自分は文章が冗長に感じられてしまい、ぶっちゃけ要らないと思ってしまう。

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終わりに

 大人買いした書籍をざっと見てみると、個人的には意識していなかったが割と医学関係の本が何冊かある。

 本書もその内の一冊なわけだが、自身の健康維持を図らんとする潜在意識が働いたのだろうか?

 だが以前読んだ「人間の往生」、そして本書に共通して指摘しているのは、医学に長けた者が自分自身の診断・治療をするとロクな目に合わないということである。

 自分が何らかの疾病に罹患した際には、客観的な立場で診断できる他者に任せる。

 自分の医学知識がどこまで広がるかわからないが、このことは念頭に入れておきたい。

 

 END

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