【書評】島田裕巳「仏像鑑賞入門」

書籍

 前提知識が足りないとキツイ。

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概要

 宗教学者・島田裕巳による、仏像鑑賞の初心者向け指南書

 日本の仏教における仏像の役割、造り方、歴史、著名な仏像の概説がまとまっている。

 特に奈良の寺院、仏像に関しては鑑賞に適した推奨ルートが紹介されており、実地で鑑賞する際の参考になる。

 著者が鑑賞を薦める仏像もいくつか紹介されており、交通の便の良し悪し、周辺の資料館や別の寺院の紹介も盛り込まれている。

レビュー 

 仏像に興味があるのかと言えば、一般市民多数と比べたらアリよりだろう。

 そもそも歴史に興味があるし、なんだったら大学院時代に奈良の寺院を巡る一人旅を敢行したこともある。

 ただ、当時は(今もそうだが)寺院や仏像に関する知識が乏しく、国宝館や展示会場にズラリと並ぶ仏像たちをただ見るだけで終わってしまった。

 本書が刊行されたのは、自分が奈良一人旅をする前だったので、一人旅の前にこの本を知っていれば読んでいたかもしれない。

 ただ奈良には1泊の予定だった(奈良以外の場所も行きたかった)ため、著者が薦める3泊4日を全て奈良に費やすのは別の機会になるだろう。

 

 さて、本書を読んだ今なら、大学院時代の寺院旅行よりもより有意義な旅行ができるだろうか。

 素直に言うなら、まだノーだろう。

 いかんせん、本書で扱っている自分にとっての新知識の量が多く、一回読んだだけでは全てをさばききれない。

 また、前提知識も不足している部分が多々あるため、繰り返し読んだり、他の仏像入門書や仏教入門書も漁って知識を定着させないことには、学生時代以上の収穫を得る自信がない。

 

 特に仏像の造り方に関しては、文章で書かれたものを頭の中でイメージするのが難しい。

 こればかりは映像で見て学ぶ方がはるかにわかりやすい気がするが、手頃な動画がどこかに転がってないだろうか…

 

 だが、仏像の歴史に関してはなかなか興味深く読み進めることができた。

 いわゆる国宝級の仏像は多くが飛鳥時代、奈良時代、(平安時代を飛ばして)鎌倉時代に制作されたもので、これ以降は特徴的な仏像はほとんどない。

 飛鳥時代、奈良時代は仏像が日本に伝来した時期で、これに魅了された日本人は仏教における信仰の対象として、仏像を国家プロジェクトのレベルで制作した。

 代表的なものが東大寺の大仏である。

 信仰の形として、人々が自らの苦痛、苦悩から解放してくれると信じて制作されたからこそ、多くの仏像がある意味魂を込めて制作され、その熱意が形となって今日まで伝わっている。

 しかし、平安時代になると、最長や空海による密教の輸入や浄土教の普及によって、仏教信仰のアウトプットが大仏制作から儀礼、修行、念仏へとチェンジしていく。

 そこから長い間、仏像制作は個人レベルのものに留まり、さらに平安時代後期には平清盛が奈良の仏教寺院を焼き討ちし、多くの寺院の仏像が深刻な被害を受けた。

 長らく不遇の時代を過ごした仏像だが、鎌倉時代に一瞬だがスポットライトが当てられる。

 平清盛による奈良焼き討ちの後、被害を受けた仏教寺院は復興に向けて動き出し、源頼朝が鎌倉幕府を創設すると、頼朝はこの復興事業に尽力した。

 ここで活躍したのが運慶・快慶を代表とする慶派の仏師たちだった。

 今までの仏像に無い斬新なスタイルを取り入れた彼らの仏像は、現代でも多くの人の目を引く傑作として残されている。

 しかし、注目される仏像もここまでで、鎌倉時代以降はこれといった価値ある仏像はほとんどない。

 結局は、平安時代に普及した密教、浄土教の信仰方式がそのまま庶民の間に定着し、仏像制作は仏教信仰において大きな意味を持たなくなってしまった。

 仏像制作は手間がかかる上、仏像を拝むには仏像がある場所まで出向く労力が必要だが、儀礼や念仏であればやり方さえわかれば庶民でも場所を選ばず実践できたことも大きかった。

 そのまま時代は流れ、明治時代には廃仏毀釈によって多くの仏像が損壊、廃棄されるという憂き目にも合い、ようやく仏像に歴史的価値を見出されるようになったのは戦後のこと、つまりごくごく最近のことだった。

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終わりに

 ここのところ宗教、歴史関連の本ばかり読んできたため、次は別のジャンルの本にしたいと思っている。

 ただそれとは別に物理関係の本も読みたいのがあるが、これは読むというよりもちゃんと読み込まないといけないからそれなりに時間も必要。

 もうほんと何度も何度も言ってるけど時間が足りん。

 

 END

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