もうあれから10年?
概要
社会学者・荒井利子が日本統治時代のミクロネシアの実態を綴った一冊。
ミクロネシアの日本統治時代、太平洋戦争、アメリカ統治時代を生きた島民たちを取材し、そこで得られた証言から当時の実情をありのままに伝える。
また、当時を生きた島民が日本に好意的である理由を、当時の社会構造をヒントに考察している。
レビュー
実はこの本、10年ほど前に自分が大学時代に本屋で立ち読みしたことがある。
面白くてずっと読み進めていたが、別の予定があったのと、当時は買うほどではないかと思い購入しなかった。
だが頭の片隅ではずっとこの本を覚えており、今回せっかくだからと購入した。
この本が刊行されたのは2015年と、10年近い月日が経過している。
本書に登場する島民たちはほぼ全員壮年で、おそらく今ではほとんどの人が鬼籍に入っているだろう。
時間が経つに連れ、この本の存在意義が強まってくる。
第二次世界大戦中までに日本が一部でも占領下に置いた国の中には、今でも日本に謝罪と賠償を求め続ける国がある。
むしろ、日本国内で広く報道されるのはそういった国の主張で、下手すると日本は当時の占領地すべてから恨まれていると感じかねない。
一方で、かつての自分と同様に、南洋諸島の日本統治時代について知る日本人はほとんどいないだろう。
当時を知る島民は「日本時代は良かった」という。
おじさん、年寄りがよく言う「昔は良かった」とダブりがちだが、実際には単なる懐古厨と決めてかかれない事実があった。
詳細は本書を読んでもらいたいが、まず日本統治時代とアメリカ統治時代を比較すると、明らかに日本統治時代の方が当時における人間的な生活を送れている。
日本の統治下にあっても、日本は当時の島民たちを社会構成員としっかり認識し、島民たちの教育、支援を手抜かず実施した。
日本の目的はあくまで島民たちを日本人と同化させることであり、その目的達成のためとはいえ、結果的に島民は先進国の社会で生活するための教育を受けることができた。
ただそれだけだと、当時日本統治下にあった他の国も同じ。
他の国との大きな違いは、南洋諸島独自に広まった階層構造だと著者は指摘する。
これも詳細は本書を確認願いたいが、かなり個人的には面白い指摘に思う。
と同時に、やはり全ての人間が気持ちよく暮らせる社会は原理的に実現不可能なのか、とも思ってしまう。
終わりに
実はこの本の前に別の本を一冊読んでいたのだが、その本のレビューはもう少し先にしようと思う。
もうちょっと読み込んで、自分のものに確実にしてからにしたい。
END
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