【書評】北川智子「ハーバード白熱日本史教室」

書籍

 ハーバードという名前にまんまとかかった。

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概要

 歴史学者・北川智子が自身の歴史観とハーバード大学での講義体験についてつづった半生史。

 学生時代に受講したハーバード大学の日本史の講義に歯がゆさを覚えた著者が、その歯がゆさの正体を突き止め、自身の目指す歴史観を構築するまでの過程が書かれている。

 そしてその歴史観をもとに、今度は自身が講師としてハーバード大学の教壇に立ち、学生たちにその歴史観を教えた講義についてセルフレビューしている。

 他にもハーバード大学の内情や文化について関係者視点で触れている。

レビュー

 「この著者、常人離れしてるな」というのが読み進める中で得た感想。

 例えば次のような感じ。

  • カナダの大学に入学し、数学と生命科学を専攻して学部を卒業後に一転、大学院は日本史を専攻。
  • 博士課程ではプリンストン大学に移り、博士号取得に通常は5年を要するところを3年で取得し、ハーバード大学の日本史講師に就任。
  • かつては2桁人数集まれば良いとされていた日本史講義において、就任2年目で3桁の大台に乗せ、ハーバード大学内で最も優れた講義として表彰される。
  • 講義と研究を進める中、趣味のピアノで演奏していたバッハのフーガからヒントを得て、長年の研究の疑問に決着をつける。

 パワフルな人はいるが、この著者はパワフルかつ自分が経験したことを難なく吸収する力にも恵まれており、結果として非常に多才である。

 羨ましい限りだ。

 

 著者は学生時代に受講したハーバード大学の日本史の講義に「サムライ」しか登場せず、女性の存在が極めて希薄であることに違和感を覚えたとある。

 おそらく著者が受けたハーバード大学の講義には、日本史に通ずる日本人のほとんどが違和感を覚えるだろう。

 大河ドラマでは1981年には既に、豊臣秀吉の正妻・ねいが主役の「おんな太閤記」が放映されており、少なくとも著者が日本史に携わる時期の日本では日本史と女性は切り離せない存在となっていたはずだ。

 しかし、少なくともアメリカでは違った。

 著者はこのギャップに気づいた上で、日本史に大きく関わった女性の存在を初めて海外向けにアピールしたわけだ。

 自分としては正直、もう少し早くこの違和感に気づいて日本史に登場する女性について啓蒙する人がいても良かったんじゃないかとも思う。

 

 著者が企画した講義に「KYOTO」という講義がある。

 詳細は本書を参照願いたいが、まず自分だったら取らないだろうなと思ってしまう講義だ。

 内容が悪いというわけではなく、単純に形式が自分と相性が合わない。

 好きな人は好きなんだろうけど、多分日本人には少数派なのではなかろうか?

 だがこういったことができる環境があり、自然に受け入れられる土壌があるのは羨ましくもある。

 

 最後に、第二次世界大戦以降、日本には自国のアイデンティを確立させるだけの「大きな物語」が無いと著者は主張している。

 果たしてそうだろうか?

 敗戦から高度経済成長を経て、アメリカに次ぐ経済大国に登り詰めた歴史は「大きな物語」にはなり得ないのだろうか。

 自分は当時を生きた人間ではないからわからないが、当時を生きていた人の多くが「当時の日本は世界一と胸を張って言えることがたくさんあった」と口を揃える。

 少なくとも当時は日本に誇りを持っていて、「日本とはこういう国だ」と自信をもって言える人が多かったのではないか。

 「大きな物語」の定義がよくわからないが、物語の「期間」も条件に入るのなら、日本の躍進は今は鳴りを潜めてしまっているわけだから、まぁ納得できる。

 そして少なくとも、バブル崩壊後の日本においては「大きな物語」は無いと思っていいだろう。
 (「東日本大震災」はどうなんだ?という声が聞こえてきそうだが、震災が日本のアイデンティティの確立に一役買ったかというと個人的には疑問符が付く。)

 次の「大きな物語」は何になるのかわからないが、戦争は勘弁してほしい。

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終わりに

 最近、読みたい新書のリストアップを始めている。

 とりあえず新潮新書に絞って題名と概要だけさらって候補を上げているが、総数約50冊。

 いつもは実際に中身をさらっと読んで気に入ったものを購入するようにしているが、50冊を店頭で試し読みするのは骨が折れる。

 どうするか…

 

 END

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