【書評】原武史「知の訓練:日本にとって政治とは何か」

書籍

 教養の講義受けておけば良かった。

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概要

 政治学者・原武史が明治学院大学で開講した「比較政治学」の講義録。

 主に明治以降の日本の政治について、多様なキーワードとの関連性を深堀りしながら、その特質を明快に述べている。

 大学1,2年生のレベルに沿うようなるべく平易な言葉を使いながら、著者自身の研究成果を交えて内容の質をしっかり維持している。

レビュー

 「知の訓練」というタイトルだけ見ると脳トレ本と思われがちだが、実際は大学の政治学の講義録であり、サブタイトルの方が内容に近い。

 本書は明治学院大学で、著者が教鞭を取った講義の録音をもとに書かれたものである。

 開講時期は2012年~2013年で、まさに自分も大学生だった時期。

 同じ時期にこの講義聴講したかったなぁと、当時聴講していた学生さんが羨ましく思う。

 ちなみにうちの大学にはどんな教養科目があったかシラバスで調べてみたが、政治学の教養講義はあるものの内容は異なるもので、あまり興味を持てないものだった。

 

 講義の構成はいわゆる「一話完結」もの(たまに前後編ものあり)。

 「○○と政治」が各講義回のテーマで、○○には毎回異なるキーワードが入る。

 講義自体は10年前のものだが、現在でも十分読み込む価値がある内容である。

 どのテーマの講義も目から鱗もので、個人的には
・靖国神社の性質
・伊勢神宮と出雲大社の対立
・東京と大阪の都市構造の違い
が勉強になった。

 ちなみに東京の都市構造を扱った章では、冒頭で東京都内の名所が位置する区を解答するクイズがあったが、自分はほとんどできなかった。
 (言い訳すると自分は都内に住んだことは無い。)

 こういった初歩的なものを含め自分が知らない内容が盛りだくさんで、個人的にはかなりコスパが良い(言い方…)本だった。

 

 ただ、これは個人の感覚の問題なのかもしれないが、内容が連続していない講義構成にはむず痒さを感じた。

 理系科目は積み上げの科目で、前に習ったことが次に勉強するテーマの土台となるため構成として連続的にならざるを得ず、その講義構成に慣れてしまったせいかもしれない。

 

 また、本書には「はじめに」があるが、総括に当たる章はなく、最終回となる講義の章の終わりがそのまま本書の結末部分となっている。

 おそらく、本書の内容が「比較政治学」の講義の前半部分にあたり、後半部分は未刊行であることが原因と思われる。

 だが個人的には前半部分だけでも良いから、様々なテーマで政治について論じてきた結果を総括するとどのような結論に落ち着くのか、著者の見解を一旦示してほしかった。

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終わりに

 本書は「比較政治学」の講義の前半部分を収録したもので、後半部分も刊行予定の旨が本書内で述べられているが、今のところ続編にあたる本は刊行されていないようである。

 すでに10年が経過してしまい、内容的には時代遅れになってしまっている部分もあると思うが、個人的には構成はそのままに、内容は現代に寄せるように再構築して続編を刊行して欲しい。

 

 END

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