前回
に引き続き、芥川龍之介。
今回は「トロッコ」。
トロッコ
8歳になる良平は、鉄道工事現場に行ってはトロッコを眺め、自分もトロッコを動かしたり、乗ったりしてみたいと思っていた。
ある日、良平は弟とその友達の3人でトロッコ置き場に向かった。
3人は、一番端にあるトロッコを力を合わせて押し、勾配が急になってもう動かせないというところでトロッコに飛び込み、線路を下る遊びをした。
線路を下りきって、もう一度トロッコを押し上げようとしたとき、背後から足音とともに、自分たちを叱りつける土工の声が聞こえた。
土工の姿を見るな否や、良平たちは一目散に逃げ出していた。
良平は数日もすると、また工事現場にトロッコを眺めに来ていた。
ふと良平の目に、枕木をトロッコに乗せた若い2人の土工の姿が映った。
良平は、この2人の土工に親しみを覚え、
この2人ならトロッコに触らせてくれるかもしれない。
と考え、上り坂でトロッコを押す2人の下に駆け寄って、「トロッコを押すのを手伝う」と言った。
2人は快く良平の提案を受け入れ、良平は2人と一緒にトロッコを押し始めた。
良平は2人とともに、上り坂でトロッコを押し、下り坂ではトロッコに乗って駆け下りる、という流れを複数回繰り返した。
最初は嬉々として2人とトロッコを進めていた良平だったが、目の前に海が見えたとき、自分が思ったよりも遠くまで来てしまったことに気づく。
その後も何回か上り下りを繰り返し、2件目の茶屋に到着したとき、良平は2人の土工から信じられない言葉を耳にする。
もう暗くなってきたからお前はもう帰りな。
俺たちはこの先で泊まることになってるから。
今まで歩いたこともなかった長い道のりを、日が暮れて暗くなる中、たった1人で戻らなければならない現実を突きつけられ、良平は愕然とした。
良平はすぐさま、元来た道を線路伝いに走り出した。
走る途中邪魔になるからと、土工からもらった菓子、草履、汗を吸った着物まで捨てながら、良平はとにかく無我夢中で走った。
夜の帳が下りる中、良平はようやく自分が住む村に帰ってきた。
家に到着するや否や、良平は今まで堪えていたものをすべて吐き出すように、大声で泣き喚いた。
その泣き声に家の者たちはもちろん、近所の人まで集まってきたが、良平は訳も話さず泣き続けるのだった。
それからしばらく時が経ち、良平は雑誌の編集者となって東京で働いていた。
しかし大人になっても、良平は何の理由もなく、あの時のことを思い出すのだった。
END
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