【書評】読売新聞文化部「唱歌・童謡ものがたり」「愛唱歌ものがたり」

書籍

 やっぱ歴史は面白い。

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概要

 読売新聞の日曜版に掲載された連載記事「うた物語」及び「名曲を訪ねて」をまとめ、文庫本化したもの。

 上記連載は現代に渡って歌い継がれてきた童謡、唱歌、愛唱歌が誕生した背景、作詞者、作曲者の半生などを紹介することをコンセプトとして組まれた。

 実際に連載されたのは90年代から2000年代前半にかけてであり、情報としては古いものもある。

 しかし、現在では既に鬼籍に入ってしまっている方の証言も数多く、現代において歌の歴史を探る上で重要な記録となっている。

レビュー

 娘の誕生を機に、学び直したいと考えていたジャンルに昔ばなしと童謡があった。

 幼稚園、保育園でも扱うだろうが、親がある程度把握しておくべきものもあるだろうし、そもそも一日本人の常識として押さえておきたいという思いもあった。

 でもどうせなら、歌詞だけでなくプラスアルファで歌の作者や歴史についてもまとまっている本はないかと探していて、辿り着いたのがこの2冊である。

 

 この2冊、1冊だけでも400ページを超える大作で、「こんな歌知らない」なんてこともザラにある。

 なので今回は知っている曲だけをつまみ食いして他は読み飛ばしたのだが、それでも読み応えのある記事ばかりだった。

 

 まず、唱歌・童歌・童謡・愛唱歌という4つの言葉にはちゃんと違いがあることを今回初めて知った。
 (本書には違いについての説明は無く、個人的に調べた。)

 まず童歌(わらべうた)とは、主に子どもの遊びの中で用いられ、明治時代以前から伝承されてきたものである。
 「かごめかごめ」「はないちもんめ」「通りゃんせ」「あんたがたどこさ」などがこれにあたる。

 唱歌とは、明治維新後に学校教育用に政府主導で作られたものを指し、教育的な側面が強い。
 「故郷」「蝶々」「桃太郎」「荒城の月」などがこれにあたる。

 童謡とはある意味で唱歌と対をなすもので、大正時代後期以降に子どもが純粋に歌を楽しむことをコンセプトに作られたものを指し、芸術的な側面が強い。
 「しゃぼん玉」「うれしいひなまつり」「ぞうさん」「おもちゃのチャチャチャ」などがこれにあたる。

 そして愛唱歌はよりカバー範囲が広くなり、ジャンルや年代を問わず時代を超えて歌い継がれている曲を指す。
 「青い山脈」「大きな古時計」「上を向いて歩こう」「翼をください」などがこれにあたる。

 そしてこれらをひとまとめにした叙情歌という便利な言葉もあるため、今後は上記3つをまとめてこの言葉を使うことにする。

 

 基本的に本書では各叙情歌の歴史を紐解いているが、読み進めるに連れて叙情歌の歴史の大まかな流れが見えてくる。

 まず、明治維新を機に西洋音楽を国内に根付かせる目的で、既存の西洋楽曲に日本語の歌詞をあてた唱歌が政府主導で一気に作られ、学校教育にあてられた。
 (高野辰之、岡野貞二、etc.)

 明治後期になると、「荒城の月」を皮切りに日本人作の西洋音楽作品が作られるようになり、新たな唱歌として普及していった。

 これらの楽曲は教育目的で作られたものであり、昔ばなしや日本の風景、訓話を主題とし、文語体で書かれたものがほとんどだった。

 これに対し、大正時代後期になると「子どもが純粋に楽しめる歌を」というコンセプトのもと、覚えやすいメロディと口語体の歌詞から成る童謡が発表され始める(第1次童謡ブーム)。

 「しゃぼん玉」「七つの子」「かもめの水兵さん」などが当時の代表作だ。
 (野口雨情、本居長世、中山晋平、河村光陽、etc.)

 また、江戸時代から歌い継がれてきた童歌に楽譜があてられていったのもこの頃からである。

 しかし戦争が始まると、国内の歌曲は軍歌一色となり、当時の作詞家、作曲家も作風の転換、出征などを余儀なくされる。

 そして戦後、戦争に抑圧されてきた作詞家、作曲家が火付け役となり、第2次童謡ブームが到来する。

 「うれしいひなまつり」「ぞうさん」「めだかの学校」などが当時の代表作だ。
 (サトーハチロー、まど・みちお、團伊玖磨、中田喜直、阪田寛夫、大中恩、etc.)

 その後はアニメ放送、欧米音楽の普及などに伴って様々なジャンルの歌謡曲が誕生し、現在に至る。

 

 こういった歴史の中で、叙情歌1つ1つにもそれぞれ物語があり、人間ドラマがあり、そういったものに触れるのはやはり面白い。

 「ぞうさん」の背景には戦争に翻弄された動物たちの悲話がある。

 「うれしいひなまつり」に込められた作詞者・サトーハチローの想い。

 留学先で挫折しかけた文部官僚の心の支えとなり、日本の唱歌教育の先駆けとなった「蝶々」。

 子どもたちの教材として計画的に、非常に高い完成度で作曲された「桃太郎」。

 詳細は実際に本書を読んで確かめてもらいたい。

 記者たちの興味、興奮が濃縮された文章に引き込まれること請け合いである。

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終わりに

 ざっと読み終えた感じ、まったく知らない曲が半数以上ある。

 平成1桁生まれの自分がこの感じなら、より若い世代、そして娘世代にはもっとこれら叙情曲の認知度は低くなっていくに違いない。

 ただ、情報媒体としての映像、音声の日常的なやりとりが普通になった今の時代、認知度は低くなっていっても存在がなくなることはないだろう。

 知らなくても気になったらそのときに調べればいい。

 何かの折に知らない叙情歌を聞いたときにまたこの本を開きたい。

 

END

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