今回読み返した中で、最も前回から捉え方が変わった一冊。
概要
作家・保阪正康が太平洋戦争について解説した「大人のための歴史教科書」。
内容は旧日本軍の組織構造から開戦に至るまでの経緯、戦時中の状況、降伏までの経緯について詳細に書かれている。
その上で、太平洋戦争の意味とその敗因を明確にしようと試みている。
レビュー
全体的に太平洋戦争の流れと内実を述べた内容になっており、一通り読めば軍の内情、開戦に至る経緯、戦時中の軍の中枢部の実状等を知ることができる。
ただ「教科書」を銘打っている割には、著者自身の憶測の域を出ない記述が多いように思える。
裏で太平洋戦争開戦へ日本を進ませた真の黒幕は海軍であるという主張などは、興味は覚えるものの特にその傾向が強い。
ただ、陸軍ばかりが悪者扱いされている現状に待ったをかけ、海軍にも相応の非があることを解説した部分には唸らせられた。
結局、陸軍、海軍が足の引っ張り合いをしたことが、戦況悪化の要因の一つとなったことは押さえておくべきだろう。
ただ、明らかに文脈と沿っていないものも見られる。
「二・二六事件」当時、軍内には「天皇自身が直接、軍事、政治を主導すべき」と考える「皇道派」と「国防を確実なものにすべく軍部に権力を委ねるべき」と考える「統制派」という二大勢力があった。
「二・二六事件」は皇道派の青年将校が、統制派の皇道派に対するいやがらせに反発する形で起こった事件、と解説されているが、それを踏まえると下記は明らかに見当違いな文章である。
青年将校の決起自体は失敗に終わったわけであるが、結果的に「二・二六事件」は、彼らが訴えていた通りの「軍主導」、とくに「陸軍主導」による国家体制の方向へと進ませることになった。
保阪正康「あの戦争は何だったのか」
青年将校が訴えていたのは「天皇主導」による国家体制であり、「軍主導」を唱えたのは統制派である。
本来であれば、「二・二六事件」を機に皇道派は衰退し、統制派がさらに影響力を強めたことで、日本は「軍主導」による国家体制を構築することになる、と書くべきだろう。
結局のところ、太平洋戦争の敗因は
・戦略(戦争の意義、終着点)を十分検討せず、戦術に拘ったこと
・問題が発生しても場当たり的な対症療法に終始したこと
・現実から目を背け、理想を事実にすり替えたこと
の3つに集約され、現代の日本でも同様なことが起きてはいないか?と本書は問いかけている。
正直、思い当たることはいくつかある。
大きな組織を俯瞰してみても、また自分自身を振り返ってみても。
一種の国民性と言ってしまえば簡単だが、これを知っていると知らないとではまた差が出てくる。
自戒することを忘れないためには、やはり何度か読み返すしかないだろう。
終わりに
最初に読んだときは正直そこまで印象に残っていなかった本だが、今回読み返してその価値の高さに気づけたのは収穫だった。
ただ本書刊行からすでに20年が経過しようとしている今、この間に新たに判明した事実も踏まえた新たな「教科書」が必要だろう。
刊行時期とすれば戦争終結80年にあたる2025年だが、どんな本が出てくるか楽しみだ。
END
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