【書評】上原善広「異形の日本人」

書籍

 個人的にこういうのすごく好き。

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概要

 フリーライター・上原善広が送る、いわゆる「異端」とされてきた人々の半生を綴ったルポ。

 彼ら、彼女らがなぜ「異端」とされてきたかを紐解きながら、彼ら、彼女らを「異端」たらしめた日本という国、日本人の本質に迫る。

 中には様々な事情からタブー視される内容もあるが、決して歪曲せず、事実に即した表現で大胆に切り込んでいく。

レビュー

 学生時代に読んだ新書の中でとりわけ印象に残っているものの1つ。

 なんと言っても先鋒の「ターザン姉妹」が強烈すぎて、そのまま手を引かれるように外の「異端」な人たちの半生を眺めるうちに本が読み終わる。

 著者の意図通りかはわからないが、だとしてもまたその術中に自ら嵌りに行きたくなる、そんな本だ。

 

 読み返す前に、自分が本書に登場する人物で覚えていたのは「鹿児島のターザン姉妹」と「溝口和洋」の2つだけだった。

 前者は先述した通り、内容が強烈すぎて印象に残っていたパターンで、今回読み返してみても、やはり他の登場人物の中ではかなり異質である。

 今の上皇様が皇太子時代、このターザン姉妹の写真を見て近親相姦に危険性を感じ、民間人の美智子様とご結婚されたというエピソードはさすがに眉唾物だが、当時を知る人たちが彼女らをタブー視して著者に積極的に情報提供しようとしない態度にはリアリティがある。

 で、気になった自分はGoogle先生に訊いてみたのだが、なんと本書に書いてある通りの写真が出てきた。

 ただ情報はそこまでで、それ以外の詳細な情報は出てこなかった。

 

 「溝口和洋」はやり投げの日本記録保持者であり、アテネオリンピックの男子ハンマー投げで金メダルを獲得した室伏広治を育て上げた人物である。
 (作中ではアジア記録保持者としても紹介されているが、本書刊行後にアジア記録は更新されている。)

 読み返す前に彼について覚えていた印象は「我が道を行く堅物アスリート」だった。

 大体合っていたが、「堅物」というよりは「融通が利かない」がより正しいだろう。

 彼はとにかく型にはまらない。

 自分が検証して正しいと実感したことは、当時の常識に反していても曲げなかった。

 しかしかと言って彼自身が鋼のメンタルの持ち主だったかというとそうではなく、周囲の声を紛らわすために苦手な酒に頼る競技生活だった。

 シャイで人付き合いも苦手だが、実際は指導者となった経歴があるように世話好きな面もあり、親しい人の面倒はとことん見る。

 おそらく、自分は彼にシンパシーを感じる一方、彼が持つ自分では真似できない面に魅力を感じ、特に印象に残っていたのだと思う。

 周囲の声に敏感で人見知り、でも親しい人には心を許し世話を焼くところは自分に似ている。

 一方、自分が正しいと信じたことは最後まで突き詰め、最後にはしっかり結果を出す面は自分には足りない部分だ。

 この差を生むものははっきりしている。「覚悟の有無」だ。

 彼は「やり投げに賭ける」と覚悟を決めたから結果がついてきた。自分には単純にそれが無い。

 正しくは「覚悟なんてしなくても生きていける環境にいる」というありがたい状況なのだが、実際覚悟を決めざるを得ない境遇になったとき、彼のように覚悟を決めれるかというと正直自信は無い。

 ただ、常にこの環境が持続するとはさすがに考えていない。

 万が一のための予防策は打ってあるし、決して怠惰にならないように自戒しているつもりだ。

 「覚悟を決める環境」にならないよう、自分は自分なりに頑張ろうと思う。

 

 最後にかなり細かい部分ではあるが、最後の初代桂春団治の章で、昭和初期に落語に代わって漫才が台頭した理由について横山エンタツが語った内容が印象に残っているので紹介しておく。

「落語はストーリーをやかましくいうのに反し、われわれ万才はただ無茶苦茶で笑わせようとする。そこが、つまり大衆の好みに合うというわけだすやろ。万才を聞くのには頭がいらん、ただ口開けてアハッハハハと笑っていたらいい。誰にでもよくわかる。世の中がむつかしゅうになってくると、人間は誰でも簡単な逃避所がほしくなる、万才の時代性がつまりそこにあるというわけですね」

上原善広「異形の日本人」

 特に注目したいのが太字の部分。

 確かに当時の日本は関東大震災、治安維持法制定、世界恐慌とかなり不安定な世情だった。

 そういった現実から簡単に目を背け、忘れさせてくれたのが、当時は漫才だったという。

 これ、今の日本にもまんま当てはまってないだろうか?

 30年成長しない日本経済に解決しない国際問題、近頃は物価高にロシアのウクライナ侵攻とより国内外で「むちゅかしゅう」ことが多発している。

 そしてテレビ番組はバラエティに特化し、ゲームもパズル系のスマホゲームが幅を利かせている。

 こういうときだからこそ勉強して現状を打開していかないといけないと思うのだが、やはり人間いつになっても楽な方に逃げるのが性なのだろうか。
 (一応言っておくが、「逃げる」こと全てを否定しているわけではない。人間、「逃げる」ことが必要な場合もある。)

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終わりに

 以前、新書をリストアップしたと話したが、今そのリストアップした新書からさらに候補を絞り、アマゾンで中古品を大人買いした。

 とりあえず今回は新潮新書に絞ったが、これらが落ち着いたら別の出版社の新書にも手を出してみようと思う。

 比較的時間に余裕がある今の内にどれだけ読めるか…

 

 END

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