【書評】菅野仁「友だち幻想」

書籍

 長女が人間関係に困ったときに薦めたい本。

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概要

 社会学者・菅野仁氏が送る、現代における人間関係構築の指南書。

 現代に生きながら昭和の価値観に固執する大人の犠牲になっている少年、少女たちに、現代における人間関係の最適な考え方をシンプルな文章で解説している。

 想定読者は現代の中高生だが、その中高生の保護者、社会人にとっても有益な考え方がまとめられている。

 2018年に又吉直樹さんが紹介したことで一気に注目を浴びた。

 初版は2008年刊行だが、十分現代にも通ずる内容となっている。

レビュー

 実は3年ほど前から気になっていた本書だが、ようやく読むことができた。

 初版刊行が2008年ということで時代錯誤な部分もあるかとも思ったが全くそんなことはなかった。

 少なくとも今自分が生きている間は通用するメソッドが詰まっていると考えて良いだろう。

 

 更にこの本の優れた点は、なぜ現代人は人間関係でここまで苦しんでいるのか、その原因を時代背景を踏まえて明解に述べていることだろう。

 かなり端折ってその原因を述べると「社会構造の変化のスピードに対し、現代日本人の精神的順応のスピードが遅いから」に尽きる。

 ここを理解すると、「人は一人では生きていけない」「出る杭は打たれる」「長いものには巻かれろ」「一年生になったら」といったフレーズに感じる違和感の正体を知ることができる。

 

 また、本書で興味深かった話が「ルール」に関する話だ。

 「ルール」とというと「自由」を制限するものと捉えられがちだが、実際はその逆で「ルール」があるから「自由」が保障されると著者は述べる。

 これは「なぜ人を殺してはいけないのか」という大きな問いの回答にもなっている。

 「人を殺してはいけない」という「ルール」が無ければ、殺人が許容されていつ自分が殺されてもおかしくない世界になってしまうから、自分が生きるために必要なルールなわけだ。

 そして同時に著者は、これを「いじめをしてはいけない」というルールにもこの考え方を適用している。

 つまりこのルールが無ければ、自分がいついじめられてもおかしくない状況に陥るから、このルールが必要だという。

 

 しかしこの考え方には決定的な穴がある。

 「自分はいつ死んでもいい」というマインドの元で無差別殺人に手を染める「無敵の人」、そして「自分がいじめられるわけがない」という絶対的な自信をもつ人間にはこの考え方は通用しない。

 「無敵の人」の先駆けは2008年の秋葉原無差別殺傷事件の犯人で、事件は同年6月、本書の初版刊行が同年3月であり本書の刊行が早かったため、著者も「無敵の人」の存在を考慮できていない。

 そして、自分がいじめられると微塵にも思っていない人間は、「自分がいじめられないようにルールに従おう」という発想は無いため、ルール遵守の動機付けとしては不完全だ。

 イメージとしてドラえもんのジャイアンを連想する人がいるかもしれないが、彼の場合は明らかに暴力を盾に横柄に振る舞っているため、現実的にドライに考えれば傷害罪で警察に突き出せばジ・エンドである。

 ここから着想を得て、「いじめを犯罪として断罪する」という方向に持って行けばこのタイプの人間には抑止力となるかもしれないが、それでも「無敵の人」への抑止力にはなっていない。

 「無敵の人」を生み出さないための社会体制づくりの議論がなされ始めて久しいが、この本を読んで思うのは、一番なされるべきは現代日本人の精神的成長ではないか、ということである。

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終わりに

 今、IT技術に革命が起き、人の生活様式が大幅に変わろうとしている。

 この変化はもちろん社会構造にも大きな変化をもたらすと思われるが、それでも人間の精神的成長速度はこのままでは遅いままだろう。

 自然に任せたままでは遅い。

 もしこの遅さに危機感を覚えるなら、意識的に自分から成長速度を上げるしかない。

 どうやって上げるか?

 やはり「学ぶ」しかないんだと思う。

 今年はたくさん本を読む年にしたい…

 

 END

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