【書評】松尾豊「人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの」

書籍

 すんごい今更感があるが、やっぱり読んでおいて正解だった。

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概要

 日本における人工知能(AI)研究の第一人者、松尾豊が一般向けに上梓した人工知能の入門書。

 人工知能の歴史から、その種類、今後の展望を比較的平易な言葉とわかりやすい例を用いて解説しており、G検定の導入書としてもちょうど良い。

 刊行は7年前の2015年と、現在と比べると若干情報が古い部分もある。

 それでも「人工知能に仕事が奪われるのか?」「人工知能は人間は支配されるのか?」という世間の疑問にも真正面から見解を述べており、現在でも十分に読む価値がある一冊である。

レビュー

 過去の過ちを二度と犯してほしくない。

 本書はこの筆者の思いのもと刊行された。

 

 人工知能はこれまで二度のブームを経験してきた。

 しかし、過去のブームはいずれも下火に終わり、世間の落胆とともに冷遇の時代を作ってきた。

 筆者は、この冷遇の時代を身をもって体験した一人だった。

 

 そして訪れた三度目の今のブーム

 たとえ今回も下火になっても、再び人口知能が冷遇される時代を作りたくない。

 その思いの元、人工知能の現在地を示し、人工知能研究の正しい姿を示したのが本書である。

ブームは危険だ。実力を超えた期待には、いかなるときも慎重であらねばならない。世間が技術の可能性と限界を理解せず、ただやみくもに賞賛することはとても怖い。

松尾豊「人工知能は人間を超えるか」

 

 筆者は人工知能を宝くじとも言っている。

 人工知能は目覚ましい発展を遂げる可能性があるが、そうならない可能性もある。

 宝くじを買って一等が当たるかもしれないが、外れるかもしれないのと同じだ。

 宝くじを買って、一等が当たらなかったと文句を言う人は普通いない。

 人工知能も同じスタンスで見守り、発展しなかったからと言って落胆しないで欲しい、ということだ。

 

 その上で、筆者は現段階での人工知能は「買う価値のある宝くじ」とも述べている。

 つまり過去の2回とは違い、今回は大きく発展する可能性が高い、というわけだ。

 本書の発売から7年経過しているが、現在のAIの普及具合を鑑みれば、この予想は当たっていたと判断するのが自然だろう。

 

 ここからは興味深かった内容を書き連ねていく。

 まずは、人工知能の実現に否定的な意見に対する筆者の反論である。

 筆者は特に、人間は特別な存在で、機械なぞに再現できるわけがないというある種の優越願望が否定派に潜在していると述べている。

人間を特別視したい気持ちもわかるが、脳の機能や、その計算のアルゴリズムとの対応を一つひとつ冷静に考えていけば、「人間の知能は、原理的にはすべてコンピュータで実現できるはずだ」というのが、科学的には妥当な予想である

松尾豊「人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの」

 スティーブン・ホーキングを始め、本来こういった考えを持つべきではない科学者たちでさえこの否定派に回っている。

 ある意味この二者択一(人工知能の実現可否)は、人類優位派を暴くフィルターのように思える。

 ただ個人的には、この人間は有能なんだというマインドは、ある程度科学者には必要なものだとも考えている。

 このマインドが無ければ、ここまで科学技術は進歩してこなかったはずだからだ。

 欧米は自然を制御する、日本は自然と共存する歴史を歩んできたが、欧米で科学技術が進歩してきたのも「人間は自然を制御できるはず」というマインドがあったこそだと思っている。

 ただ人間を特別視するにしても線引きは必要で、科学的に矛盾しない指摘に反射的に異を唱えるのは科学者がとるべき態度ではない。
 (ホーキング氏がちゃんと自分なりの考察をした上での意見なのかは知らないが。)

 

 もう一つ、興味深かったのが「第五世代コンピュータ」の話である。

 1980年代にかつて日本に存在した国家プロジェクトであり、当時としてはかなり野心的な目標を持つプロジェクトだった。

 プロジェクト自体は10年続くも、時代を見誤ったことでプロジェクトは頓挫してしまう。

 しかし筆者は本プロジェクトを高く評価しており、

もしウェブの出現があと15年早かったら、(本プロジェクトが成功を収めて)いまのシリコンバレーの座には、日本がついていたかもしれない

松尾豊「人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの」

と述べている。

 ただし、本プロジェクトによって日本は欧米に見劣りしない人材母数、海外とのコネクションといった人工知能研究開発の基盤が築かれた。

 プロジェクトは頓挫しても、その副産物が今の日本に恩恵をもたらしているのである。

 先駆的なプロジェクトは先を読めず頓挫するリスクばかり表に出るが、未来でヒットしたときに世界を尻目に一歩(下手したら百歩)リードできるリターンは、今のグローバル社会ではとてつもなく大きい。

 だからこそ今欧米がやっている最先端に真っ向勝負挑むより、その先を見据えて投資するべきなんだけどなぁ…

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終わりに

 G検定に合格して1年半以上が経過しているが、意外と覚えている部分もあり読みやすかった。

 個人的には大枠はそのままに、現在の状況や今後の展望を修正、加筆した第2版を出してほしい。

 タイミング的には刊行10年後の2025年だろうか。

 もし刊行されたら本記事にレビュー追記したいと思う。

 

 END

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