力学、電磁気学、量子力学等、すべての物理学の分野に共通して必要になる概念がある。
それが「次元」と「単位」だ。
この2つを使いこなせるようになると、物理を学ぶ上でかなり有利になる。
「次元」とは?
「単位」はお馴染みの「\(\text{m}\)(メートル)」や「\(\text{g}\)(グラム)」など、ある種類の量を示すのに用いる概念だ。
では「次元」とは何か?
「次元」というと、いわゆる平面を2次元、立体を3次元と呼称する際の「次元」を思い浮かべるだろうが、ここで扱う「次元」は全く別物だ。
「次元」とは、ある物理量の単位がどのような量の組合わせでできているかを表現したものだ。
言葉だけでは難しいので例を出そう。
例えば「\(5\,\text{m}\)」、「\(10\,\text{cm}\)」、「\(3\,\text{mm}\)」の3つの物理量。
これら3つは量は違えど、すべて「長さ」を表す物理量であり、「長さの次元を持つ」という。
同様に「\(4\,\text{s}\)」、「\(6\,\text{ms}\)」、「\(8\,\text{h}\)」はすべて「時間」を表す物理量であり、「時間の次元を持つ」という。
これら長さや時間のような基本的な次元には、下表のようにアルファベット1文字があてがわれる。
量 | 次元 | 単位例 |
長さ | \(\text{L}\) | \(\text{m},\text{km}\)など |
質量 | \(\text{M}\) | \(\text{g},\text{kg}\)など |
時間 | \(\text{T}\) | \(\text{s},\text{h}\)など |
電流 | \(\text{I}\) | \(\text{A},\text{mA}\)など |
温度 | \(\Theta\) | \(\text{K},\text{mK}\)など |
物質量 | \(\text{N}\) | \(\text{mol}\)など |
光度 | \(\text{J}\) | \(\text{cd}\)など |
長さ~電流までの4つが特に使用頻度が高い。
そして上記以外の次元は、上記の次元の組み合わせで表現される。
例えば力の次元は「\(\text{MLT}^{-2}\)」、磁束密度の次元は「\(\text{MT}^{-2}\text{I}^{-1}\)」といった具合だ。
どう使うのか?
実際の物理の計算において、上記の次元の記号を使うことは、私に関してはあまりない。
だが、「普段から次元を意識する」ことは欠かしていない。
例えば、次のような問題を考えよう。
内容積\(5\times10^{4}\,\text{cm}^{3}\)の真空容器があり,その中に質量\(90\,\mu\text{g}\)の水蒸気が閉じ込められている。この容器を\(427\, ^\circ\text{C}\)の温度まで加熱した場合,加熱中の真空容器内部の圧力を求めよ。ただし、水蒸気は理想気体とみなしてよい。
理想気体の状態方程式\(PV=nRT\)を用いる典型問題だが、だからと言って闇雲に
$$P\times 5\times10^{4}=90\times 8.31\times 427$$
とそのまま代入して計算し、\(P=6.39\)を答えとするのはアウトだ。
そもそも上記の式では、左辺と右辺の次元があっていない。
左辺の次元:(圧力)\(\times\)(体積)\(=\text{ML}^{-1}\text{T}^{-2}\times\text{L}^{3}=\text{ML}^{2}\text{T}^{-2}\)
右辺の次元:(質量)\(\times\)(エネルギー)\(\times\)(物質量)\(^{-1}\times\)(温度)\(^{-1}\times\)(温度)\(=\text{M}^{2}\text{L}^{2}\text{T}^{-2}\text{N}^{-1} \)
等式なのだから当然、左辺と右辺の次元を合わせる必要がある。
ここでは水蒸気の質量\(90\,\mu\text{g}\)を物質量に変換すれば、両辺の次元が合う。
だがこうやって逐一、両辺の次元のチェックをするのは正直面倒だ。
私はどうしているかというと、単位も込みで計算するようにしている。
具体的には、まず下の式のように単位も入れた式を立てる。
$$P\times 5\times10^{4}\,\text{cm}^{3} =\frac{90\,\mu\text{g}}{18\,\text{g/mol}} \times 8.31\,\text{J/(mol}\cdot\text{K)}\times 427\, ^\circ\text{C}$$
次に同じ次元の単位(\(\text{g}\)と\(\mu\text{g}\)など)を同じ単位に統一し、除算で消せる単位を消す。
$$P\times 5\times10^{4}\,\text{cm}^{3} =\frac{90\times 10^{-6}\,\text{g}}{18\,\text{g/mol}} \times 8.31\,\text{J/(mol}\cdot\text{K)}\times 700\,\text{K}$$
$$P\times 5\times10^{4}\,\text{cm}^{3} =\frac{90\times 10^{-6}}{18} \times 8.31\,\text{J}\times 700$$
その後は方程式を解きつつ、単位の整理も同時並行して進めていく。
$$
\begin{align}
P&=\frac{90\times 10^{-6}\times 8.31\times 700}{18\times 5\times10^{4} }\,\frac{\text{J}}{
\text{cm}^{3}} \notag \\
&=\frac{8.31\times7\times10^{-6}}{10^{2}}\,\frac{\text{kg}\cdot\text{m}^{2}/\text{s}^{2}}{10^{-6}\,\text{m}^{3}} \notag \\
&=\frac{8.31\times7}{10^{2}}\,\frac{\text{kg}\cdot\text{m}/\text{s}^{2}}{\text{m}^{2}} \notag \\
&=8.31\times7\times10^{-2}\,\text{N/m}^{2} \notag \\
&=5.82\times10^{-1}\,\text{Pa}
\end{align}
$$
こうして計算結果と、求めるべき物理量の単位が合っていれば、まず問題ない。
明らかに計算結果の桁がおかしい場合は、単位換算時に計算ミスをした可能性が高いため、その部分からチェックするのがおすすめだ。
また上記の問題では乗除算のみで加減算はなかったが、加減算の際にも次元と単位を意識する必要がある。
とは言っても意識することは「単位が異なる者同士での足し引きはNG」の1つだけだ。
例えば次元は同じでも、\(2\,\text{m}^{3}+8\,\ell=10\)と計算してはいけないということだ。
こういったことを防ぐには、加減算をする前に両者の単位を予め確認することが大切だ。
これを意識しておけば、次元が異なる者同士の加減算も同時に防ぐことができる。
終わりに
・物理の計算は、単位も込みで実施する。
・異なる単位同士の物理量の足し引きはNG。
この2つを意識するだけで、物理計算のミスは格段に減るし、単位そのものの勉強にもなる。
最初は面倒に思えるかもしれないが、慣れてくると単位なしでの計算は不安で逆にできなくなってしまう。
そこまでいけばこっちのものだ。
まずは簡単な問題からで構わないので、場数を踏んで慣れていってほしい。
END
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