今まで読んだ社会情勢解説本の中でピカイチかもしれない。
概要
社会学者・橋爪大三郎氏が送る、国際社会情勢の解説書。
今の現代国際社会を4つの大きな文化圏とそれ以外に分類し、4つの文化圏それぞれの人々の行動様式をモデル化し、歴史を辿りながら現代国際社会情勢の成り立ちを紐解く。
刊行は2019年と少し古いが、本書が与える思考基準は(我々が生きる時代においては)十分普遍的であると言える。
レビュー
本書がやっていることは、端的に書くと次のようになる。
- 世界を大きく4つの文明圏に分割する。
- 4つの文明圏での人々の行動様式を「4行モデル」で記述する。
- 異なる文明圏が遭遇したとき、どのような化学反応が起こるかを「4行モデル」をもとに考察する。
人々の行動様式を示す「4行モデル」は(かなり端的ではあるが)次にようにまとめられる。
- まず、自己主張する。
- 相手も、自己主張している。
- このままでは、紛争になる。
- ○○○○なので、紛争を回避できる。
4行目の○○○○が、4つの文明圏によって異なり、文明圏の特徴が現れる部分だ。
すごく単純である。
単純でわかりやすい。
この問題アプローチの仕方は、「物理」にそっくりだ。
「物理学」とはいわば「複雑な自然界で起きる自然現象を、単純なモデル内で通ずるなるべく普遍的な原理・法則で記述、解釈する営み」である。
例えば「質点(質量を持つが大きさを持たない点)」というモデルは「運動方程式」という物理法則に従い、これによってリンゴの落下運動から惑星の公転運動に至る幅広いスケールで自然現象を記述することができる。
さらに例を挙げると「理想気体(質量を持つが大きさを持たず、相互作用のない粒子の集団)」というモデルは「理想気体の状態方程式」という物理法則に従い、条件が合えば実際の気体の振る舞いをこの状態方程式で記述することが可能だ。
本書で言う「モデル」は物理でいう「原理・法則」に該当するが、考え方は似通っている。
つまり「『4行モデル』に従う世界」という「モデル」において世界の人々は「4行モデル」という「原理・法則」に従って行動しており、これによって現代の国際情勢に至るプロセスや歴史問題の原因を、かなり実際に近いレベルで追究できる、というわけだ。
さらに言うと、「『4行モデル』に従う世界」では4つの大きな文化圏とそれ以外に分類でき、「文化圏」によって「4行モデル」から導き出される行動様式は異なる結果となる。
これは、同じ「運動方程式」に従っていても質点の質量が異なれば運動の仕方が異なるし、同じ「理想気体の状態方程式」に従っていても気体の種類が異なれば気体の振る舞いに違いが現れることと同義である。
「文化圏」は「4行モデル」において考慮すべきパラメータというわけだ。
モデル | 質点 | 理想気体 | 「4行モデル」に従う世界 |
原理・法則 | 運動方程式 | 理想気体の状態方程式 | 4行モデル |
原理・法則において考慮すべきパラメータ | 質量、加速度、周辺環境(真空 or ガス内、摩擦の有無など)、etc… | 気体の種類、圧力、体積、温度 | 文化圏 |
記述できる事象 | リンゴの落下運動 惑星の公転運動 etc… | 実在気体(条件付き)の振る舞い etc… | 国際情勢 歴史問題 etc… |
物理以外でこのアプローチの仕方に触れるのは新鮮で、同時に個人的にスッとこのアプローチを受け入れることができた。
4行モデルの結果を頭に入れておくだけでも有用だし、過去の世界各国の歴史問題についても大きなものは網羅しているため、何回でも繰り返し読む価値が十分にあると思う。
ところどころ専門用語が不意に出てくることがあるが、辟易するレベルではない。
本書の内容を一通り把握しておけば、他の似た系統の書籍を読む際に必要な知識ベースは身につくのではないか。
終わりに
各分野で一冊は、こういった教科書的な本を探したいのだが、なかなかお目にかかれない。
いや、そういうコンセプトで書かれた本はいくらでもあるんだが、自分の相性に合う本を見つけるのが難しい。
今回はそういう意味で貴重な一冊だったと思う。
相性に合う本を探すには実際に手に取って流し読みしてみるしかなく、今は僅かにできた時間で本屋に行って新書コーナーを漁っている。
目ぼしい本が見つからなければ、過去に読んだ本の再トライもありか?
END
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